進化の可能性とそのパフォーマンスを実際に見せることの重要性は、昔も今も変わらない。新たな世界への扉は、いつもそうして開かれてきた。BEVの課題として常に指摘されるのは、その航続距離である。エンジン車に迫るロングラン性能、という難題に挑戦したBEVの姿を見た。(Motor Magazine 2022年8月号より)

市販車でもっとも低いCd値0.17を達成

ヴィジョン EQXXでもっとも注目すべき点は、1000kmの航続距離を可能にするためのデザインだ。全走行抵抗のうち62%を占めるといわれる空気抵抗を低減させるため、可動式アクティブディフューザーや全体を滑らかな曲面で覆った細長い4ドアボディデザインを採用。前面投影面積はわずか2.21㎡でCd値0.17を達成している。これまで市販車でもっとも低いCd値はフォルクスワーゲンXL-1の0.19であった。

画像: 2022年のCESで公開されたBEVのコンセプトモデル、ビジョンEQXX。フル充電での航続距離1000km以上を掲げた。

2022年のCESで公開されたBEVのコンセプトモデル、ビジョンEQXX。フル充電での航続距離1000km以上を掲げた。

次世代のMMA(メルセデスモジュールアーキテクチャー)をベースにした全長4.84m、全幅1.35m、全高1.35mのEQXXの車重は1750kgで、フォルクスワーゲンID.3より200kg軽く仕上がっている。超高張力鋼板やアルミ、カーボン、さらには合成樹脂サスペンションバネの採用などもあるが、それ以上に貢献しているのは高容量シリコンアノード(負極)を使用したCATL製リチウムイオン電池だ。その総重量は495kgで、EQS用より30%も軽量化された。

冷却システムは空冷式で、負荷のかかる走行シーンなど必要時にだけフロントのシャッターを開けるクーリングオンデマンド方式を採用する。インテリアはレザーなどの動物系素材を一切使用せず、再生素材を多く使いながらも快適で軽量に仕上げられている。

EQSで採用済みのダッシュボード幅一杯に広がる47.5インチの8Kハイパースクリーンは、省電力仕様となった。さらにインフォテインメントは次世代のUI/UX、すなわちAIの介入で地形、天気などさまざまな外界のコンディションを計算し、ドライバーと協調して最良の効率を達成しようとするシステムだ。

CATL製の新型電池の容量はおよそ100kWh、システム電圧は920Vとなっている。ルーフパネルには合計117個の太陽電池セルを装備して12Vバッテリーに接続、天気が良ければナビシステムなどの消費電力を担うことで、最大で分の航続距離を稼げる。

最高巡航速度140km/hで走れるEQXXのもっとも驚異的なのはその電力消費量で、100kmあたり10kWhと、サブコンパクトクラスのMINI SE(15kWh)のそれを下回る想定なのだ。

想定値を上回る高い効率。革新的な技術によって実現

このEQXXの実証実験は、4月5日に行われた。走行経路は、メルセデス・ベンツ本社のあるシュツットガルトから南仏のカシスまで。ルートには一般道、アウトバーン、難所で有名なオーストリアとイタリアの国境にあるゴッタルド峠が含まれている。本社にはコントロールルームが設置され、まるで宇宙探査船を送り込むプロジェクトのように多数のモニターを使って、その経過を注視していた。

画像: 再生素材などが活用されたインテリア。レザーフリーなどエシカルなコンセプトで統一されているのも、BEVらしい特徴の演出。

再生素材などが活用されたインテリア。レザーフリーなどエシカルなコンセプトで統一されているのも、BEVらしい特徴の演出。

午前7時、フル充電済みの充電ポートは、ドイツ検査協会の手で封印されて出発。道中は、数々の難所を乗り越えながら、11時間32分で1008kmを見事に走り切った。平均速度は87.4km/h、必要とあれば最高速度の140km/hにも達し、他の交通の妨げにはならないテンポであった。

さらに到着後のチェックで、消費電力は100kmあたり8.7kWhだったと判明して、驚異的な効率の高さを実証。電力残量はおよそ15%で、まだあと140km走れる余力も残っていた。

ゴール後に同乗試乗の機会を得たが、優れた空力特性と軽量化を達成したボディにもかかわらず居住性に制約はなく、同時にインテリアの品質、そして仕上げもメルセデスベンツとしてのクオリティが保たれていた。乗り心地もコンセプトモデルとは思えないほど快適で、このままショールームに直行できると感じたほどだ。

ヴィジョンEQXXがこの姿で市販されることはないが「実証された多くの革新的技術は徐々に量販モデルに採用され、BEVの進化を加速させる」と社長のオーラ・ケレニウス氏は語る。航続距離の面でも従来車を凌駕する日は、案外そう遠くないのかもしれない。(文:アレキサンダー・オースルテン<キムラ・オフィス>/写真:キムラ・オフィス)

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