ガラス交換にも「認定」が必要。ADASの信頼性を守る「自動車特定整備制度」
すでに2020年4月からそれまでの「分解整備」に代わって新たに、「自動車特定整備制度」が施行されている。
本格的なターニングポイントと言えるのが、2021年11月以降に販売される新型国産乗用車から衝突被害軽減ブレーキが搭載義務化されたこと。それとともに、車線保持アシストシステム、アダプティブクルーズコントロールなど、さまざまな先進安全運転機能(ADAS)を構成する機器が、道路運送車両法における保安基準の対象として指定された。
「自動車特定整備制度」はそうした変化に対応するものだ。その一環として国土交通省は、自動運転制御の中核的システムの整備を「電子制御装置整備」と名付け、事業体に所属する整備責任者には、2020年4月から「電子制御装置整備の整備主任者等資格講習」の受講を義務づけることになった。
つまりは従来の「自動車整備士資格」に加えて、時代の進化に寄り添った電子部品に関わる整備テクニックの取得が求められているわけだ。そうした変化は、作業を依頼する側の自動車ユーザーにとっても、けっして無関係ではない。
たとえば、飛び石で傷がついてしまったガラスの交換作業を行う時。専門業者が電子制御装置整備の認証を受けているのがベスト、そうでなければ認証を受けた委託先の事業者による特定整備記録簿の記載・写しが必要になる(構内外注などでは特例も認められる)。
また2021年10月から定期点検には、OBD(オンボード・ダイアグノーシス:車載式故障診断装置)を使ったADASシステムの診断が求められている。データ上でなんらかの異常が発見された場合は、ガラス交換の場合と同様に「電子制御装置整備」が義務付けられる。
つまり、そうした点検・整備・修理などの作業を行うショップや工場が「自動車特定整備制度」に則って仕事を進めているかどうかは、愛車が装備するADASの信頼性に直接関わってくる可能性がある、ということになる。
実際、国土交通省が明らかにしている不具合情報の中には、さまざまな自動車メーカーのクルマで衝突被害軽減ブレーキが誤作動を起こした事例が報告されている。
そのすべてが調整不良によるものかどうかは判然としていない。しかしユーザーにとっても、特定整備制度導入の背景やそこから起こる変化をある程度まで理解しておくことは、不可欠と言えるだろう。
そもそもなぜ、新しい制度が導入されることになったのか
なんだかとってもややこしい「電子制御装置整備」はなぜ今、導入されなければならないのか。
ADASは、人間が運転する時と同じように、目(車載のカメラやレーダー、ソナーといった各種センサー)で走行「環境を再現」しながら、脳(統合型CPU)がそれをもとに対象物を「認知」し、「判断」に基づいてアクセルやブレーキ、ハンドルなどを「操作」している。
もしもその「環境の再現」に不備があると、続いての認知、判断や操作などすべての段階で齟齬が起きる危険性があるというわけだ。
そのため、ADASに関わるセンサーが装着されているパーツ(フロントバンパーや、ウインドーなど)を脱着、修理、交換した場合には必ず、ADASセンサーの調整が必要となる。整備関連の業界ではそれを、システムに正確な基準点「ゼロ点」を認識させる作業=「エーミング作業」と呼ぶ。
このエーミングが実はなかなかに曲者で、本当に正確に基準点を認識させる作業を行うためには、それ専門の知識と技術が必要になる。「電子制御装置整備の整備主任者」は、まさにその知識と技術を取得したことを認証するものだ。
同時に、特定整備事業者としての認証基準の中には、設備に関する基準も設けられている。
たとえばエーミング作業を行うスペースの床面が水平でなければ、メーカーの指定する環境基準に満たないどころか、ADASシステムが誤った方向を0点として認識してしまう。地面からのミリ波の反射などによって衝突被害軽減ブレーキの誤作動などが発生、最悪は事故に至る可能性もあるのだ。
ただしこれは、工場内の水はけを考慮して、床面がなだらかに傾斜していることが多い整備、板金工場においては、非現実的な条件だと言う声も一部で上がっている。