幻の初代RSに出会い、心をときめかせる
懐かしいモデルがあった。かつて憧れていたモデルもある。そればかりか、一時期はかなりお世話になったモデルもある。そして、購入の一歩手前までいったモデルが何台もあった。
誕生から50年を経たホンダ シビック。その初代から9代目までを一気に試乗するイベントが催された。場所はモビリティリゾートもてぎ(2022年3月にツインリンクもてぎから名称変更)の北ショートコース。しかも周回数や速度に制限があったので、それぞれの雰囲気を味わっただけと理解していただければいいだろう。
そのなかで、もっとも試乗を楽しみにしていたのが初代シビックRS。1974年に発売され、その翌年にはCVCCエンジンの登場にともなって生産終了となったRSは、いわば幻の1台。しかも、当時はまだ珍しいメーカー自身が手がけた高性能モデルということも手伝って、子供心をときめかせたことを覚えている。プロポーションのいいコンパクトボディをオレンジで彩るセンスもバツグンにオシャレに思えたものだった。
そんな憧れの1台に乗ってみると、低回転域でもまずまずのエンジントルクを生み出してくれるので発進は容易。サスペンションだって、現代の標準から見ればむしろしなやかで、ストローク感も意外とたっぷりしていた。当時、外紙に「シビックにはサスペンションがない(と思えるほど足まわりが動かない)」と揶揄されたことが信じられないほどだった。
歴代シビックはそれぞれの時代に応じて変化している
もうひとつ、意外だったのは室内の作りの良さ。セミバケットシートはクッションがソフトでホールド性がいいとは思わないが、ダッシュボードまわりの作りはとても手が込んでいて、コンパクトカーとは思えないほど。ここにも、初代シビックの志の高さが表れているような気がした。
2代目以降のシビックは時代に応じてさまざまに変化。とくに8代目では、それまでのコンパクトファミリーカーからひとクラス上に移行したことが明らかで、これはその後の9代目、そして現行の10代目にも受け継がれている。つまり、シビックも私たちと同じように「オトナ」になったのだ。
それでも、歴代シビックには共通した価値観がある。それは広々とした室内スペースであり、走りの楽しさであり、環境負荷の低減である。そして、それらは創業者、本田宗一郎が唱えた「人間中心の設計思想」に基づいているように思える。今後登場するシビックにも、「人間中心の設計思想」が同じように息づいていくことを強く期待したい。(文:大谷達也/写真:ホンダ)