実体のない「電磁的記録」を正しく扱うためのガイドラインを守る
自動車が事故を起こした際に、事故直前から直後にかけてのクルマの挙動やコンディション、ドライバーの運転動作などについての記録を残すデバイスが「EDR(イベントデータレコーダー)」。先進安全技術の普及にともなう自己責任の按分を判断する場合など、さまざまな事故解析のシーンで役立つと考えられている。
欧米に比べて日本においてはこれまで、EDR(イベントデータレコーダー)の利活用について認知度が低かったことは確かだ。それでも刑事・民事を問わずさまざまな交通事故案件や損害保険の原因究明、責任按分といった実務の現場では、その記録を読み取ることができるCDR(クラッシュデータリトリーバル)の手法を学んだ資格取得者たちがすでに活躍し始めている。彼らは従来の事故原因検証・分析の手法では解決が難しいトラブルの解決に、積極的に取り組んでいる。
実務での活用が進むにつれて、「記録=デジタルデータ」を取り扱うことの難しさにも留意する必要性が高まってきた。実はドライブレコーダーの画像なども同様なのだけれど、物理的な実体を伴わない「電磁的記録」はとくに係争に発展した案件において、証拠としての信頼性を担保するために取り扱いには細心の注意を払わなければならない。
なぜなら一般的に電磁的な記録は、指紋や凶器といった物理的に実体のあるアナログ的証拠に比べて改変、消失しやすい、と考えられるからだ。関係者が証拠として共有する場合にも、真正性(デジタルデータが本物であることを証明する裏付け)や保全性を確保するための独自のガイドラインが、必要だと考えられている。
日本におけるEDRの活用を推進しているボッシュ株式会社もまた、「CDRアナリスト」や「CDRテクニシャン」という資格制度を導入中で、電磁的な記録としてのCDRレポートの信頼性を高めるために、車両データの読み出し手順におけるガイドラインを明確化している。
以下は実際に、CDRテクニシャン資格を取得するためのトレーニングで配布された「車両損傷及び状況情報」の取得手順だが、一見しただけでも非常に細かく手間暇のかかるものであることがわかってもらえるだろう。