昔ながらの町並みに建つ、世界に誇れる建築作品
筑波山の北麓に情緒豊かな町がある。茨城県桜川市の真壁町だ。町に差しかかると、それまで山麓沿いに続いていた田園風景や里山の集落とは異なる雰囲気が漂う。大きな街道筋や東北道、常磐道のインターチェンジからも離れているうえに、鉄道の駅もない!(かつてはあった)と、明らかに不便な場所ながら、鄙(ひな)びた集落でもなく凛とした文化的な香りが感じられる町なのだ。
それは、過去へとタイムスリップしたかのような古い町並みが広がっているからだろう。立派な長屋門を構える家に、店舗と住居を兼ねた見世蔵をはじめ中には洋館まで、いずれも古い家屋が町中に点在している。
また、町の区画も中世からほとんど変わっていないようで、それらが心を惹かれる風情を醸し出しているようだ。ちなみに、豊臣秀吉の五奉行だった浅野長政が晩年を領主としてここで過ごしている。そうした輝かしい人物がいたことも関係しているのかもしれない。
聞けば、多くの家屋が国の登録有形文化財に登録されているという。その数102棟。しかも江戸期から昭和初期に建てられたものまで実にバリエーション豊か。また、今の姿が残されているのは、住民の意識の高さや努力があってこそに違いないが、真壁町は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。
そんな真壁の町を知る、楽しむきっかけとなっている施設が「真壁伝承館」である。町の中心にあり、陣屋跡地に建つ。館は市民のための集会施設、多目的ホール、図書館、歴史資料館が入る多目的複合施設だ。驚いたのは、モダンでスタイリッシュな建物であること。白や黒の漆喰を使った商家を彷彿とさせ、直線的な構成とランダムな窓が印象的だ。
日本の歴史との調和が美しい
設計は、東京・東雲のキャナルコートCODAN 5街区や米国コーネル大学医学部カタール校などを手掛けた「設計組織ADH」。町並みを構成する古い家屋のプロファイルをサンプリングし、施設の計画に応じて組み上げる方法で、歴史的な都市環境に適合する建築を作り上げている。その過程では何度も住民とのワークショップを重ねたという。それだけに見事に古い町並みと調和した建物になっている。
歴史資料館は外部訪問者にも開放されており、真壁町の成り立ちや町並みについてよく知ることができる。散策前に立ち寄れば、町を見る景色もきっと変わるに違いない。
さて、館の方々にうかがったところ、真壁町の散策でお薦めの時季はひな祭りの頃だそう。なんと、毎年約150軒近い家々が、ひな人形を飾り、一般に開放するというのだ。中にはお茶屋お菓子を振る舞う家もあり、この時ばかりは楽しく華やかな時間が流れる。また、桜川市には桜の名所が数多く点在するので、真壁町とともに桜を探訪する春先のドライブも気持ち良さそうだ。
名所豊富な筑波山へのドライブでは、真壁町は地理的にもつい通過しがちな場所である。次からはちょっとクルマをとめて、四季折々の散策をしてみたい。(文:小倉 修)