2022年12月20日マツダは、新型クロスオーバーSUV「MAZDA CX-60」が備える先進安全運転支援システムが日本で初めて、2023年から適用が始まる一部改正・保安基準に適合したことを発表した。国際的な技術ガイドラインに沿った「ドライバー異常時対応システム」は確かに、新しいレベルの安心感をサポートしてくれそうだ。一方でその恩恵を受けるにあたってはオーナーも、心に留めておくべきことがある。

自動運転技術の恩恵を実感。そこには「使う」責任も生じる

他にも「ドライバー異常時対応システム(EDA)」に関しては、クルマ側の制御要件やロジックだけでなく、運転者の異常検知や制御開始、停止時の報知内容、あるいは操作のオーバーライド時の対応など、文系にはめまいがしそうな配慮すべき事項が山積している。

画像: マツダが市販車への実装を進める「コ・パイロット・コンセプト」では、一般道での「減速停止/車線維持」機能が、他ブランドのシステムにない新機能となる。第2世代では、退避技術のさらなる進化を目指すという。

マツダが市販車への実装を進める「コ・パイロット・コンセプト」では、一般道での「減速停止/車線維持」機能が、他ブランドのシステムにない新機能となる。第2世代では、退避技術のさらなる進化を目指すという。

それでも、次世代の高度運転支援システムの要として、ある意味、国家を挙げてこの機能についての基本形制定が進められてきた。令和3年(2021年6月)には、日本国内のガイドラインの内容を反映した国連協定規則の改正案(第79号第4改訂)が合意されたことで、国内向けの保安基準の改正が実施されたわけだ。

要件の制定を急ぐ背景のひとつには、ドライバーの異常に起因する事故が年間200~300件も発生していることがある。乗用車だけでなくバスなどの公共交通機関でも、運転従事者の高齢化が進み、異常が発生する可能性が高まっていることがあるのだと思う。

実際、2018年7月には、運転手や乗客が非常停止ボタンを押すことで車両を減速、停止させるシステムが日野自動車によって開発され、搭載した大型観光バスの販売がスタートしている。

一般道で安全に停止させる機能の完成はとくに、緊急性がある、と言えるかもしれない。マツダが2021年に「コ・パイロット・コンセプト」を発表した折に提示した資料によれば、急な体調変化による事故は95.8%が時速60km/h以下で発生しているという。

いわゆるレベル4相当のような、本格的な自動運転というシステムの「恩恵」を受けることになるのは、ずいぶん先の話だと思っていた。しかしCX-60をめぐるニュースによって、技術そのものとしては、実はとても身近になり始めていることを、改めて実感した。そうしたシステムの有効性にはもちろん、大いに期待していい。

一方で、そうした自動運転技術の一端を利用したシステムは同時に、自動運転そのものが抱えるさまざまな課題を共有していることは覚えておいたほうがいい。これまでにない先端技術の恩恵を受けるにあたってはユーザーの側も、相応の理解や認識を持っておくべきだと思う。

わかりやすいところでは、自動運転技術の肝心要というべきセンサー類を、常に最適な状態にしておくことは、所有者が担うべき責任ではないだろうか。わかりやすいところでは適切かつ精度の高い「ADASエーミング」はまさに、基本中のキ。運転支援の濃度が上がれば上がるほど、その必然性は高まっていくものだ。

実際、CX-60の取扱説明書には、DEA使用上のさまざまな警告・注意が明記されている。中でも「DEAを正しく作動させるために、次のことを守る」の項目には、各種センサーを「適切に取り扱ってください」と明記されている。

■DEAを正しく作動させるために、次のことを守る(マツダ CX-60 取扱説明書電子版より抜粋)
●フォワードセンシングカメラ (FSC) を適切に取り扱ってください。フォワードセンシングカメラ (FSC) が対象物を正しく検知できない場合、思わぬ事故につながるおそれがあります。
●レーダーセンサー (フロントレーダーセンサー、フロントサイドレーダーセンサー、リアサイドレーダーセンサー) を適切に取り扱ってください。レーダーセンサーが対象物を正しく検知できない場合、思わぬ事故につながるおそれがあります。
●超音波センサーを適切に取り扱ってください。超音波センサーが対象物を正しく検知できない場合、思わぬ事故につながるおそれがあります。
●ドライバー・モニタリングカメラを適切に取り扱ってください。ドライバー・モニタリングカメラが対象物を正しく検知できない場合、思わぬ事故につながるおそれがあります。

自動運転車による事故への対応は、今からしっかり考えておくべき

また、万一の事故時の法的対応などについても、念頭に置いておくべきだ。シンプルに気になるのは、ドライバーが運転を継続できない状態で自動的に操作されながら行う回避行動が、二次被害につながってしまった場合の対処だろう。正直な話、現在の技術では、あらゆる危険な要素をしらみつぶしに回避することはおそらく難しい。

画像: GREMO(名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所)の公式HP。2022年11月30日に開催されたオンラインシンポジウム「自動運転車の事故の法的責任に関するシンポジウム ~交通事故の法的責任の調査・捜査はどう変わるか~」では、ボッシュからもEDR/CDRの専門家が参加し、交通事故の調査や捜査の現場での「データに基づく客観的事故分析」の重要性について語った。 www.gremo.mirai.nagoya-u.ac.jp

GREMO(名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所)の公式HP。2022年11月30日に開催されたオンラインシンポジウム「自動運転車の事故の法的責任に関するシンポジウム ~交通事故の法的責任の調査・捜査はどう変わるか~」では、ボッシュからもEDR/CDRの専門家が参加し、交通事故の調査や捜査の現場での「データに基づく客観的事故分析」の重要性について語った。

www.gremo.mirai.nagoya-u.ac.jp

そうなるとたとえば回避中に、他車だけでなく周囲の道路ユーザーとの接触・衝突などが起こった時、あるいは回避した車両をさらに緊急回避しようとした車両が他車や歩行者と事故を起こしてしまうような「2.5次的被害」についての事故原因の解析や、責任問題などがどうなるのか?重箱の隅をつつくようではあるが、法的な整備も含めてまだ不透明なものは多いように思える。

おりしも、去る2022年11月30日、名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所「GREMO(Global Research Institute for Mobility in Society)」が「自動運転車の事故の法的責任に関するシンポジウム ~交通事故の法的責任の調査・捜査はどう変わるか~」を開催。自動運転車が潜在的に内包する「事故発生時、誰が法的責任を課せられるのか」という課題に着目し、関連分野のオーソリティがそれぞれの視点から取組を説明、提案を行った。

GREMOが取り組んでいるのは、名古屋大学を中心に産学官民が連携する「地域を次世代につなぐマイモビリティ共創拠点」の創設だ。その鍵を握る要素としてGREMOは、マイカーを使わなくても快適に便利に移動できる地域密着型モビリティの実装を検討している。

それを実現する重要な手段のひとつが自動運転による移動なのだが、一般的に普及するためには技術の向上やインフラの整備といったハードの進歩だけでなく、関連法制度に代表されるソフト面での整備が不可欠、という視点に立つ。今回のシンポジウムでも、関連の事業を担うサプライヤー、研究者、法曹家による講演が実施された。

たとえ非常時とはいえ「ドライバー異常時対応システム」の価値は、ドライバーがなんらかの異常によって運転操作を行えない状態に陥ったところで、安全に車両を停止させられることにある。技術的には、極めて高いレベルの自動運転に相当しているといえるだろう。

それが実際に市販車に搭載され始めた以上は、他のメーカーもこれに追随することは間違いない。その恩恵を受けるユーザーは一方で、これまでとは違った意味での事故や事件における対応が必要になるかもしれない。

果たして今まで通り「損害保険にはいっているから大丈夫」なのか?事故が刑事事件に発展してしまったとき、運転者(あるいはクルマの所有者・使用者)は、どんな法的責任が問われることになるのか??

実は意外に身近なところで、自動運転技術をめぐる気になる課題は数多い。そうした課題に対する現状を知り、これからを展望することのできるGREMOのシンポジウムについては、改めて詳しく紹介したいと思う。

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