徹底した軽量化が生み出す走りとは・・・!?
おそらく今回のテストはICEを搭載したアルピーヌA110の最後のモデルになるだろう。胸が高鳴ると同時に少々残念でもある。というのはこれまで登場した「ピュア」「GT」「S」そしてレーシングを意味する今回の「R」はどれも素晴らしいスポーツカーだからで、誰もが存続を望んでいるからだ。
ただ、結果的にアルピーヌはこの最終バージョンを徹底的に研ぎ澄ますことに成功している。まず重要な対策は軽量化とフロントフラップ、リアウイングそしてディフューザーなどさまざまなエアロパーツによる空気抵抗の改善である。
新設計のスポーツシートは5㎏の軽量化を達成、小さなリアウインドウは4㎏、カーボンボンネットは6㎏と極めて軽量だ。ハイライトはホイールでカーボンファイバー製である。4本のホイールはSバージョンよりも12.5㎏も軽い。
最終的にA110Rの空車重量はわずか1090㎏になり、エアロキットを装着した「S」よりも約34㎏も軽い。
軽量化のみならずシャシにも多くの手が加えられている。高い剛性のスタビライザーとハードなバネで10㎜ローダウンされたスポーツサスペンションを装備。ZF製の油圧調整機能付きのダンパーは公道車検対応ではなくなるが、さらに10㎜車高を下げることができ、ドライバーはアジャストリングで20段階(伸び&縮み)を調整することが可能だ。タイヤはセミスリックの18インチミシュランカップスポーツ2が装備されている。
サーキットで本領を発揮。最高速は285km/h
さて、確認したかったのはこのハイパースポーツクーペがどのような動きをするのかで、これを明らかにするためにマドリッド郊外のサーキット「デル・ハラマ」へ向かう。このスポーツカーのパフォーマンスをフルに発揮するにはここ以外には考えられない。
気温摂氏6度、セミスリックタイヤのウォームアップが必要な温度である。しかしコースインして数ラップでライト、レフトと続くコーナー、正確なステアフィールと路面からの確実なフィードバックのお陰でまさにオンザレール、高いグリップでドライバーの予想を超えるロードホールディング性が発揮されていた。
さらにタイヤが温まって来ると、リアアクスルに対するグリップ力は底知れないトラクションを発揮する。それには、最大で29kgのダウンフォースを得るスワンネックタイプの大型リアウイングも役立っているはずである。
ブレンボ製のブレーキはSと共通だが冷却システムが最適化されており、200km/hからのフルブレーキでも制動力や姿勢制御に不安はなかった。
エンジンは基本的にはSと変化はなく、1.8L 4気筒ガソリンターボは、最高出力300ps/6300rpm、最大トルク340Nmを発生、組み合わされるトランスミッションはゲトラグ製7速DCTが採用されている。
4気筒エンジンは、他のスポーツエンジンと比べるとやや鈍いサウンドで、高負荷回転域では籠って、つまったような感触がある。それでもメーカー公表値は、最高速度が285㎞/h、ローンチコントロールを使えば0→100km/hは3.9秒で加速する。
それなりにハードな乗り心地。それでも不愉快ではない。
素晴らしいのはサーキットという舞台だけではなかった。ハードなスポーツシャシは一般公道では乗員を揺さぶるが、不愉快なショックではなく、一定の快適さを保っているのである。
アルピーヌは可能な限りのFRPとエンジニアリングを投入して最後の内燃機関モデルを仕上げた。その成果はとくにサーキットでの優れたスポーツハンドリングで感じられた。
さて、アルピーヌジャポンが発表した価格は1500万円だが、世の中が電気自動車で溢れてしまっても、ドライビングプレジャーをいつまでも享受するために間違いなく保存すべき個体である。
A110Rは限定生産モデルではないので購入を考える時間はまだ十分に残されている。(文:トーマス・ガイガー:キムラオフィス)
アルピーヌA110R主要諸元
●全長×全幅×全高:4255×1800×1240mm
●ホイールベース:2420mm
●車両重量:1090kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1798cc
●最高出力:220kW(300ps)/6300rpm
●最大トルク:340Nm/2400rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:MR
●燃料・タンク容量:プレミアム・45L
●タイヤサイズ:前215/40R17、後245/40R18
●車両価格(税込):1500万円