カッコ良さへの認識は、不変か憧れを生むことのできる存在
世の中、カッコ良いクルマの基準がかなり変わってきた。最近では厳(いか)つい顔をしたミニバンやSUVに乗ることがカッコ良い。比べて背の低いスポーツタイプのなんと肩身の狭いことか。しかも、ドアが2枚しかないなんてもはや・・・。だが、そうボヤくのはどうやら我々オジサンたちの勝手な思い込みなのかもしれない。
そんなふうに感じたのは、新型SLを駆って、東京から自宅のある京都までドライブした時のことだった。とある高速道路のサービスエリアに停めてひとしきりスタイリングを観察していると、真っ黒な国産ミニバンから降りてきた若い子たちがおもむろに近づいてきた。彼らは相好を崩しながら興味津々に「これ新しいSLですよね!カッコ良いなぁ。憧れなんっすよ、メルセデスのSLって」と、話しかけてきたのだった。
しばらく立ち話。結論から言うと、ミニバンやSUVといった背の高いクルマにはあくまでもその機能、つまりマルチパーパス&マルチパッセンジャー車として必要だから乗っていて、その中で気に入ったスタイルやブランドのモデルがあるというだけなのだそう。自分たちだって経済的・住環境的に余裕があり、家族や知人を乗せたりする必要がなければ、ひとりで楽しめるクルマが欲しい。そうなればやっぱりオープンカーが最高だ、とも宣(のたま)った。
てっきり、今の若い人たちは背の低いクルマになど興味がないものだと思っていたから、少なからず驚く。ひょっとして彼らが特殊な例だったかもしれない。けれどもその場にはスポーツカー話にうなずく4、5人の若人がいたわけだから、氷山の一角?とも思える。
実を言うと最近、そういうことが他のスポーツカーやスーパーカーでも何度かあった。実践的なクルマ好きは全体的に減っているかもしれないが、観念的なカッコ良い2ドア好きはまだまだいるのではないだろうか。近年の新旧国産スポーツカーブームは、確かにオジサンが流行の中心にいたけど若い人もけっこう反応していた。
誰もが知る有名ブランドのカッコ良いクルマをカッコ良い人がドライブする姿こそ、潜在的な欲望を刺激し、その中から実践派を生み出すために大切だと思う。そこにたとえばメルセデスの歴史的スポーツモデルであり、オープンカーでもあるSLのレゾンデートル(存在意義)があった。
またスリーポインテッドスターに比べれば多少地味でマニアックな存在かもしれないが、知名度は高いジャガーもまたFタイプという典型的なスポーツカー(もしくはオープンカー)の姿で人々の好奇心をくすぐるに違いない。普段はまったくクルマに興味のないお好み焼き屋のオバサマに「カッコ良いクルマやねぇ」と、思わず声をかけさせる類のモデルなのだ。
いずれも、ある意味で古典的なオープンモデルである。SLにはモデルとして連綿と続く歴史(メルセデスの乗用車として最長だ)があるし、Fタイプにはブランドとしてスポーツカースタイルの元祖、タイプを世に送り出した矜恃がある(FとはEの次、つまりは現代解釈という意味だろう)。
それゆえ、クルマ好きならずとも「カッコ良い」「乗ってみたい」と思わせるダブルマッチングを有しているのだと思う。