低回転からひたすらフラットにパワーを供給し続けるエンジン
「スポーツシック」のスペックは最高出力156ps、最大トルク240Nmと、サイズからすれば強力そのものだが、昔のいわゆるホットハッチと違うのは、出力特性がピーキーではないという点だ。1400rpmという低い回転域から早くも最大トルクを発生、そのまま中高回転域までひたすらフラットにパワーを供給し続ける特性のおかげで、極端に言えば、どのギア、どの回転域にあっても踏めばパワーが出る。6速1500rpmからでも加速する粘り強さはコンパクトカーに乗っていることを忘れさせるほどだ。
一方、高回転域は6000rpmからのレッドゾーンのさらに先まで引っ張れるが、そこまで回しても旨味はなさそうである。要するに刹那的な刺激より持続的な余裕を狙ったエンジンであり、速さを引き出すというよりは操作自体を楽しむためのMT。そんな風に解釈することもできるだろう。
静粛性の高さも印象的だ。吸音材の大量採用やシール性の向上などによって、騒音レベルは従来型C3に対して半減と謳われているが、それは乗ればすぐに実感できるはずだ。
操作感に優れたステアリングホイールはレスポンス自体も上々。切り始めたと同時にノーズが反応するような小気味良さが演出されている。一方、そこから先は安定志向。切ったなりには曲がるが、クルマの方から嬉々として曲がりたがるというものではない。今回は雨の中でしか乗れなかったので断定的なことは言えないが、その限られた状況下では、多少攻めてもリアがどっしり落ち着いていたのが印象的だ。誰でも、どんな条件でも安心して楽しめるという意味では、良い落としどころかもしれない。
一方で直進安定性には目を見張るものがあった。ホイールベース2455mmのクルマとしてはツアラーとしての資質は高そう。やはり、これはあくまでシトロエンなのである。
ただし、乗り心地は「しなやか」とまでは評せない。C3と較べると突き上げ感があり、タイヤサイズのせいかバネ下も重く感じる。しかしながら衝撃の最後の部分ではしっとりとカドが丸められているので、長い距離を乗っていても辟易するようなことはなさそう。路面が悪くなければ、フランス車らしいフラットな姿勢を保ったままの心地よいクルージングが楽しめそうだ。
ホットハッチ的な刺激的な走りっぷりを求めると肩すかしを喰らうことになるだろう。シトロエンDS3は、どうやらそういうクルマではなさそうだ。質にこだわった毎日の暮らしに溶け込んで、走りのふとした瞬間、あるいはショーウインドウに映り込む自車の姿が目に入ったときなど様々な場面で、良いクルマがともにある生活の歓びを実感させてくれる。生活をプレミアムなものにしてくれる。言ってみれば、そんな存在ではないだろうか。
当然、その背景にはパーソナリゼーションという要素も効いている。そもそも輸入車を買おうという人は、生活への彩りや個性を期待しているのだ。それに最大限のかたちで応えたプジョー・シトロエン・ジャポンの努力はまさに賞賛ものだと言えるだろう。
シトロエンDS3は、実に今っぽいクルマだ。まさに新しい時代に相応しい価値をもったコンパクトカー。そんな風に言うことができそうである。(文:島下泰久/写真:永元秀和)
シトロエン DS3 スポーツシック 主要諸元
●全長×全幅×全高:3965×1715×1455mm
●ホイールベース:2455mm
●車両重量:1190kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1598cc
●最高出力:115kW(156ps)/6000rpm
●最大トルク:240Nm(24.5kgm)/1400-3500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●車両価格:269万円(2010年当時)
シトロエン DS3 シック 主要諸元
●全長×全幅×全高:3965×1715×1455mm
●ホイールベース:2455mm
●車両重量:1180kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1598cc
●最高出力:88kW(120ps)/6000rpm
●最大トルク:160Nm(16.3kgm)/4250rpm
●トランスミッション:4速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:249万円(2010年当時)