2.5GTをベースにハンドリング主体に運動性能を向上
昨年5月にフルモデルチェンジされた5代目レガシィは、排気量拡大やボディの大型化などによるプレミアム性の向上が好意的に受け入れられ、日本市場ばかりでなく世界的に好調な販売を記録している。また、今年5月には先進運転支援システム「新型アイサイト」を採用したことでも注目を集めている。
今回試乗したのは、その5代目レガシィで初めての設定となるSTIのコンプリートモデル。「tS」とは“tuned by STI”を示す新しいシリーズ名称で、装備仕様をハンドリング主体に磨き上げることに傾注したモデルは、今後この名称に統一されることになった。
つまりこの2.5GT tSは2.5GTをベースに運動性能を向上させ、かつ内外装を特別に仕立てたモデルということになる。すでに十分な性能を持つパワートレーンには手を加えず、「強靱でしなやか」な走りの実現に主眼を置いている。
運動性能向上のヒントは「野生動物の躍動的な走りにありました」とSTI商品企画部大和正明部長は説明する。「野生動物のしなやかな走りの秘密は、強靱な骨格と肉体にあります。そしてけっして足だけが動くわけではなく、全身を使ってしなやかな走りを実現しています。クルマも同じで、硬めるべきところは硬め、いなすべきところはいなす。それによって全身がしなやかに動き、4つのタイヤがしっかりと路面に接地して機能するのです」。
つまり、しっかりとした骨格を作った上で、動くべきところはしなやかに動かすことが重要となるということ。しかし、それはそう簡単なことではない。硬くするよりずっと難しい。しなやかさをどう出すか、動き過ぎてはかえって一体感がなくなる。
しなやかな動きを持たせたフレキシブルタワーバーを装着。STIが目指す理想は、硬いだけでない、しなやかな走り。
ハンドルを切り込んだ時の動きやロールがわかりやすい
STIでは、動きに柔軟性を持たせるため、まずドロースティフナーなどでボディの揺れを止めた上で、タワーバー、サスペンションリンクなどにピロボールを追加して無駄な入力を逃がし、それにあわせてサスペンションやダンパー、さらにアルミホイールの剛性までもチューニングしている。
その走りは、たしかに「しなやか」。乗り始めこそ高速のコーナリングなどでやや動きが大きいのではとも感じたが、慣れるにつれて動きがわかるようになると、クルマとの一体感が得られるようになる。ピタッと路面に張り付くような、巌のような剛性感とはまた違った走り味があるのだ。
ハンドルを切り込んだ時の動きやロールがわかりやすく、また操作に対する応答遅れがないので、実に気持ちがいい。とくに気に入ったのは、ハンドルやアクセルペダルの操作感がいいこと。操作した分だけスーッと動く感じ。軽すぎず重すぎない、自然なダイレクト感がある。
そしてもうひとつ、静かで乗り心地がいいこともポイントだろう。排気音は通常モデルよりもやや迫力があるというレベルだ。
しなやかさとか柔軟性は、どこでバランスさせるかがとても難しい。その点で、レベルの高いチャレンジとも言える。ここまでできるのなら、通常モデルにもこのセッティングを採用すればいいのにとも思うが、やはりコストと生産の問題があるのだろう。まずは限定モデルとして投入、市場の反応を見ながら、市販モデルに生かされていくことになる。レガシィは年次改良を重ねるごとに、どんどん進化していくことで知られているが、この2.5GT tSの経験もきっと次に活かされるはずだ。
価格は通常の2.5GTの66万8000円高となるが、その内容からすれば納得できるもの。それはSTI製のコンプリートモデルが根強い人気を持っていることからもわかるだろう。600台限定で、B4／ツーリングワゴン、ボディカラーなど、注文に応じて製作してくれる。（文：Motor Magazine編集部 松本雅弘／写真：堀越 剛）
STI製のコンプリートモデルというだけあって、ボディやサスペンションのチューニングだけではなく、内外装の細かな部分まで入念に仕上げられている。
スバル レガシィB4 2.5GT tS 5速AT 主要諸元
●全長×全幅×全高：4730×1780×1490mm
●ホイールベース：2750mm
●車両重量：1500kg
●エンジン：対4DOHCターボ
●排気量：2457cc
●最高出力：210kW（285ps）／6000rpm
●最大トルク：350Nm（35.7kgm）/2000-5600rpm
●トランスミッション：5速AT
●駆動方式：4WD
●車両価格：402万9900円（2010年当時）
※6速MTは車両重量1470kg、車両価格は5速ATと同じ
