2010年5月にドイツでデビューしたポルシェ 911 GT2 RS(997型)。911GT2は911ターボをベースにFIA GT2クラスのホモロゲーションに合わせて開発されたため、4輪駆動ではなくRRとなるのが特徴。2代目911GT2(997型)もレース参戦用に開発されたが、その軽量化バージョン(RS=レーンシュポルト)の開発中にGT2カテゴリーのレースが終了したため、「911 GT2 RS」は純粋に最速の公道バージョンとして登場することになった。ここではドイツで行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年10月号より)

GT2のニュルのラップタイムを14秒も短縮

それまでのポルシェ911の最速タイムは「GT2」の7分32秒。そのポルシェへと挑んだ日産GT-Rは、GT2を凌ぐ7分26秒台をマーク。もちろんこれらは、ご存知ドイツのニュルブルクリンク旧コース「ノルドシュライフェ」でのラップタイムだ。

飛んだり跳ねたり滑ったり……。実際にこの地を訪れてドライビングしてみれば、いくら昔でもここでF1レースが開催されていたとは到底信じられない過酷なシーンが続くことを教えられる。それが〝ちょっと立派なガードレールが付いた山道〟程度としか思えないサーキット、ノルドシュライフェの走りの環境だ。

その舞台で速さ自慢の市販モデルたちが、かくも7分30秒前後というタイムを競い合っていたところに、かのポルシェから突然とんでもない刺客が現れた。それが7分18秒というタイムをアピールする911 GT2 RSである。GT2に対して一挙に14秒もの短縮という実力は、まさに驚愕すべきものと言うしかない。

もともと軽量なGT2をベースに、カーボンファイバー強化樹脂製のフロントフードや軽量サスペンションスプリング、シングルマスのエンジンフライホイールやポリカーボネート製のリア&リアサイドウインドウなどを採用するGT2 RSの車重はわずか1370kg(DIN基準)。

そこにインタークーラーの効率を上げ、最大過給圧を0.2バール上乗せの1.6バールとして90psを加えた心臓を組み合わせるのだから、その加速能力が〝怒涛〟のものとなるのは、もはや必然だ。

3.5秒という0→100km/h加速タイムは、GT2に対してコンマ2秒の短縮。さらに、絶対パワーの差が物を言う0→200km/hの加速タイムになると、GT2の11.2秒に対してこちらは9.8秒と、軽く1秒以上も差を広げる。

画像: ブラックを基調としたインテリアに、鮮烈な赤いアルカンターラのシート中央部やハンドルのリム部やルーフライニングなどが施される。

ブラックを基調としたインテリアに、鮮烈な赤いアルカンターラのシート中央部やハンドルのリム部やルーフライニングなどが施される。

圧倒的なポテンシャルはこれまでの911と別物

そのGT2 RSの実力を試すべく訪れたドイツでの国際試乗会の舞台は、あろうことかの雨模様。前述のごとく軽量化を図った上でエンジン出力をアップ、しかもドライのサーキット路面に照準を合わせたミシュラン〝パイロットカップ〟なる浅溝タイヤを履くこのモデルは、当然のごとく隙あらばアクセルオンでたちまち後輪を空転させようという挙動を示すことになってしまった。

驚かされたのは、濡れた路面のアウトバーン上で6速走行というシーンですら、そうした兆候を示したこと。ブースト計が0.6バール以上を示すと、もはやどこのギアに入っていてもホイールスピンに身構える必要があるという状況だ。

これはもう「911の形をしたとんでもない怪物」と紹介した方が良いものであり、同じ911であってもカレラシリーズの加速などは「平和そのもの」に思えてくる。

かくして率直なところ、濡れた路面の公道上ではそのパワーを大いに持て余す結果となった。だが感心したのは、そのエンジンレスポンスが到底ターボ付きユニットとは思えないほどにシャープであった点。どうやらこれは、フライホイールがシングルマス化された影響が大きいようだ。この変更で8kgの軽量化に成功したというが、そのような減量成果はドライバビリティ面にもしっかりと現れている。

軽量化策を踏まえたリファインが行われたサスペンションがもたらす乗り味は、こちらもタイヤの選択と同様にドライのサーキット路面に照準を当てていることもあり、「際立ってハード」というのが第一印象。

ちなみに、GT2と同様に電子制御式可変減衰力ダンパー〝PASM〟を標準装着するが、それをスポーツモードで使うべきはとくに路面が平滑なサーキット走行時のみで、「ニュルのタイムアタックでもノーマルモードがベター」と教えてくれたのは、今回ショートサーキットで同乗走行を体験させてくれた、元WRCチャンピンで現在はポルシェ社〝アンバサダー〟のヴァルター・ロール氏。幸いにも、この時はドライ路面での走行となったが、なるほど脚に対してことさらにパワーが過剰とは思えない。

標準装備であるセラミックコンポジットブレーキ〝PCCB〟が、ホットな周回を重ねてもまったく制動Gの低下を感じさせないのは、相変わらずだ。

実は、911シリーズの中での究極の走りを実現させたこのGT2 RSには〝戦う場〟は用意されていない。現在のレースレギュレーションでは、このモデルが出場可能なカテゴリーというのは存在しないのだ。

それにもかかわらず、500台という限定台数で世界販売されるこのモデルは、恐らくはポルシェ開発陣が追い求めた「夢の911」。そして、ここまで突き詰められた走りのノウハウというのは、今度は「コードネームが〝991〟」と噂される次期型911へと受け継がれていくことになるわけだ。(文:河村康彦)

画像: バケットシートの本体はカーボンファイバー製で、2シーター仕様。GT2 RSはロールケージを組み込んだクラブスポーツパッケージが標準仕様だが、豊富に設定されるオプションで快適装備も装着可能。

バケットシートの本体はカーボンファイバー製で、2シーター仕様。GT2 RSはロールケージを組み込んだクラブスポーツパッケージが標準仕様だが、豊富に設定されるオプションで快適装備も装着可能。

ポルシェ 911 GT2 RS 主要諸元

●全長×全幅×全高:4469×1852×1285mm
●ホイールベース:2350mm
●車両重量:1445kg 
●エンジン:対6DOHCツインターボ
●排気量:3600cc
●最高出力:456kW(620ps)/6500rpm
●最大トルク:700Nm/2250-5500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:RR
●0→100km/h加速:3.5秒
●最高速度:330km/h※EU準拠

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