たたずまいは芸術作品。けれど鑑賞するだけでは我慢できない
同じ東京都港区でも、新橋5丁目(編集部がある)とはだいぶ雰囲気が違う南青山の一角。クリスタルスクエア南青山1階にオープンしたABODA GARAGEショールームは、現代アートの展示もあって、どちらかというと美術品のギャラリーのように洗練された雰囲気が漂う空間でした。
そこに並べられたSLたちを見た時、真っ先に思ったのは「これはちょっと、ハンドルを握ってみたいかも・・・」ということ。ただしそれは「珍しいクラシックカーだから」というような、単純な理由ではありません。
確かに、現代のクルマでは望むべくもない思わず触ってみたくなるほどに艶めかしいスタイルと、思わず乗り込んでみたくなりそうな瀟洒なインテリアの誘惑は、かなり強烈。ですが、まずはなにより、このクルマたちがいったい全体どんな走りを楽しませてくれるのか・・・まったく予想がつかない未知の存在であることに、激しく好奇心をそそられたのでした。
裏返せば、今どきまっさらの最新モデルに抱く興味津々と、それほど大きな違いはないのかも、と思い至った次第。
片や1950年代半ば~60年代前半にかけて発売されていた190SL ロードスター。片や、第2世代のラインナップに60年代後半追加設定された280SL パゴダ。どちらもそれなりの年月を経ているはずの個体なのですが。
ちょっとしたパラドックスに陥った理由は、工業製品としてのたたずまいが、およそ60年以上も前に街を走っていたとは思えないほど「若々しく」見えたから、なのだと思います。
この年代のヒストリックカーというと、普通は乗ったり運転したりするものではなく、遠慮気味に少し離れたところから鑑賞して愛でるのがふさわしい存在です。けれどABODA GARAGEのSLたちは、魅力的な最新モデルに出会った時についつい思い浮かべてしまう妄想=「このクルマと暮らす毎日」が、シンプルに脳裏をよぎったのでした。
ガレージに飾るためではなく、仕事にも遊びにも乗り回して、ついでに街を行く人の注目を心地よく楽しむ。そういう付き合い方が、似合いそうに思えたのです。もっともそんな妄想が、実はそこそこ実現可能性高めだったりするのですが。
なにしろABODA GARAGEのSLは、現代の日本の交通事情の中で毎日乗っても大丈夫、なんです。なぜなら、そういうふうに作られているから。
あえて繰り返します。
「そういうふうに直されている」のではなく、「そういうふうに作られている」んです。