「小・少・軽・短・美」は、スズキの行動理念
スズキは行動理念のひとつとして、「小・少・軽・短・美」を挙げている。スズキが作っているクルマは、移動する手段としてちょうど良いサイズのクルマ、軽くて燃費が良いクルマ、安全で必要十分な装備を備えたクルマ、言い換えれば、必要エネルギーが極少となる安全な小さいクルマだ。
例えば、日本/インド/欧州のいずれでも、スズキ車の車両重量は業界平均より200〜300kg軽い。車両重量が200kg軽いと、そのぶん材料は少なく、製造時で20%、走行時で6%のエネルギーを削減できる。小さくて軽いクルマは、エネルギーの極小化に大きく貢献するというわけだ。
つまり、「小・少・軽・短・美」によるエネルギーの極小化は、電池や燃料、クルマ、そしてリサイクルの負担も小さくでき、結果としてコストや資源リスクも少なくできる。そこでスズキは、以下のようなエネルギー極小化に向けた技術戦略の5つの柱を発表し、会場では具体的な展示物も紹介された。
1)軽くて安全な車体
スズキが得意とする小さく軽いクルマは、走行時の二酸化炭素(CO2)排出量が少ないだけではなく、製造に必要な資源や製造で排出するCO2も少なくでき、省資源やCO2削減に貢献してきた。そこで、安全で軽量な車体「HEARTECT(ハーテクト)」をさらに進化させ、軽量化技術によるエネルギーの極少化に取り組んでいく。
たとえば、軽乗用車のアルトは初代から7代目に進化するまで約200kgも車両重量が重くなった。それを8代目では全車で軽量化に取り組み、団結と譲り合いで120kgの軽量化に成功した。次期型の10代目では「Sライト」と呼ばれる走行・製造エネルギーの極小化に貢献する車両軽量化で、100kgの軽量化に挑戦する。
2)バッテリーリーンなBEV(バッテリー電気自動車)/HEV(ハイブリッド車)
国や地域の再生可能エネルギー化の状況、ユーザーの使用状況に合わせ、最もエネルギー効率が良い選択となる「適所適材な電動車をユーザーに届ける」ことを目指し、小さく効率が良い電動ユニット、小さく軽い電池など「小・少・軽・短・美」を体現し、エネルギーを極少化した電動車を開発する。
会場には、現在ヨーロッパ仕様で採用している48Vマイルドハイブリッドを進化させ、10kW程度のモーターを採用したバッテリーリーンなハイブリッドシステム「48Vスーパーエネチャージ」や、バッテリー電気自動車用の小さく軽く高効率なEアクスルを展示。いずれも現在開発中のものだ。
3)効率の良いICE(内燃エンジン)やCNF(カーボンニュートラル燃料)技術
2023年に発表された新型スイフトに搭載された新開発のZ12型エンジンは、内燃機関の根幹となる燃焼を追求した高効率で、最大熱効率40%を達成した。今後はこの高効率エンジン技術を全展開するとともに、カーボンニュートラル燃料対応や、次世代ハイブリッドによるエネルギー極少化を実現する。
具体的には、この技術を軽自動車や小型車のエンジンに展開し、またCNFの高速燃焼による高効率化や排ガスのクリーン化を目指し、さらにハイブリッドシステムのスーパーエネチャージにも対応したエンジンを開発していく。
4)SDV(ソフトウエア ディファインド ビークル)ライト
昨今のクルマで注目されているSDVについても、スズキは「小・少・軽・短・美」によるエネルギー極少化を具現化したアフォーダブルな仕組みでクルマの価値を創造する「SDV ライト」を開発する。ライトは「light(軽い)」ではなく「right(適切な)」、つまり使い切れないような機能ではなく、必要十分なものをユーザーに提供する。
たとえばADAS(運転支援技術)は、国によって交通事情が違うため、世界中のユーザーに最適なものを目指す。具体的には、インドの街中の渋滞でも活躍できるようなADASを開発をしていく。必要以上の機能ではない「ちょうど良い」を目指していく。
5)リサイクルしやすい易分解(いぶんかい)設計
リサイクルや再利用を前提にした分解しやすい製品設計を行うことで、資源の総使用量を抑制し、今までのリニアエコノミー(直線型経済)ではなく、エネルギー極少化によるサーキュラーエコノミー(循環型経済)を実現する。
インドでは回収システムを構築し、解体から再資源化に向けて取り組みを始めている。地球環境、資源の課題に向けて、サーキュラーエコノミーの実現を目指して活動を進めていく。
会場には、実際に現在の車両に使われているリサイクルパーツや、最近スズキのECサイトで発売された、セルロースを使ったマグカップなどが展示されていた。
スズキの5つの柱による戦略技術は、けっして遠い未来の技術ではなく、おそらく次に登場するモデルには、これらのいずれかが採用される可能性が高い、きわめて身近なものばかりだ。いかにもスズキらしい、「小・少・軽・短・美」によるエネルギーの極小化といえるだろう。(文と写真:篠原 政明)