ゴムの新技術「アクティブトレッド」とは?
温度が変わるとモノの性質は変わります。あまりに当然すぎて意識することはありませんでしたが、確かにおよその物質は温度によって姿カタチが変わっていきます。筆者のように化学に対して専門的知識のまったく無い人でも、水が氷になったり、油が硬くなったりすることは理解しています。
余談ですが、冬の寒い時期に愛用する低反発まくらがカッチコチに固まっていたことがあり、温度が低くなるといろんなものが硬くなるんだなと実感したことがあります。ではゴムはどうでしょうか。我々の日常に溶け込んでいる数多くのゴムたち。たとえば自転車のタイヤでも、冬に空気を入れると「あれ、こんな硬かったっけ」と思うし、逆に夏場はそれに比べると柔らかい気もします。
実はこれは真実で、低温になるとゴムは弾力性を失い、硬くなります。それは、クルマのタイヤも然りです。雪や氷などに触れて温度が下がるとタイヤは次第に硬くなります。また硬くなると路面を捉えるグリップ力は低下しますから、ブレーキ性能も低下してきます。また水上においてもゴムは滑りやすい特性を持ちますので、グリップ力は低下します。これらはゴムの性質上として誰もが「あたりまえ」と考え、タイヤのパターン(接地面に当たる模様)を創意工夫しながら、雪や雨の中でもタイヤ性能を維持する努力を各社がやってきたわけです。
2023年のジャパンモビリティショーで、住友ゴム工業が新技術として発表した「アクティブトレッド」は、そのあたりまえの概念を覆す革新的なものでした。すなわちそれは、水の有無や路面の温度変化によってタイヤ側が特性を変える、というものです。
タイヤで使用されるゴムは基本としてポリマー(ゴムの骨格材料)、シリカ(ゴムの補強)、加硫剤や添加剤などによって構成されています。これらは、互いに「共有結合」といって、それぞれの原子同士が互いに電子対の共有をともなう結合をします。要はそれぞれがガッチリとくっつき合うということです。
そこで住友ゴムは、水に触れると結束が溶けるイオン結合に着目し、化学に精通する企業とともにポリマー間における結びつきをイオン結合に置き換えるという技術(=アクティブトレッド)を開発しました。つまり、タイヤが水に触れるとポリマーの結束が溶けて柔らかくなるという特質をもつゴムが誕生したというわけです。加えて低温時においてゴムが硬くなるという性質に関しては、ポリマーの動きを常に活発な状態(=ゴムが柔らかい)にする構造を開発し、雪や氷の上を走った際にタイヤがガッチガチになりにくくなるゴムを生み出しました。
要するに、住友ゴムは「水の上でも柔らかく、雪や氷の上でも硬くなりにくい」ゴムを開発したということです。この、路面状況に応じてゴム側が能動的に特性を変化する技術というのが「アクティブトレッド」というわけです。