2010年8月、メルセデス・ベンツ CLSがフルモデルチェンジして2代目に進化、同時に5.5L V8直噴ツインターボエンジンを搭載するCLS 63 AMGが登場した。ただし国際試乗会が行われたのは翌2011年1月のこと。今回はアメリカ・サンディエゴで行われた、その国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2011年3月号より)

新開発の5.5L直噴ツインターボユニットを搭載

ここのところ素晴らしい冴えを見せているのがAMG各モデルの走りっぷりだ。SLS AMGばかりでなく他のモデルも同様。いずれも圧倒的なパワーだけでなくハンドリングの面でも感動させる仕上がりを見せている。ほんの数年前まで確かにあった「直線番長」的な面は、もう跡形もないと言ってもいい。

極寒のデトロイトから直接移動した、陽光眩しいサンディエゴでステアリングホイールを握ったのは、そんなAMGの最新作となるメルセデス・ベンツCLS 63 AMGである。実はCLSクラス自体、個人的には繊細なフォルムの先代の方が好みだなと感じていたのだが、大きく口を開けたフロントバンパーやスクエア形状4本出しのエキゾーストパイプなどAMG各モデルに共通した力強い意匠をまとうと、むしろこれぐらいでちょうど良いように思える。

いやいや実は、そんな安易な仕立てではないのだ。よく見ればボンネットフードは中央が盛り上がった専用品だし、フロントフェンダーも別物とされている。声高に主張するわけではないが細部までこだわり抜く。そんなクラフトマンシップこそが、まとまりのあるスタイリングを生み出しているのだ。

上質な仕立てのインテリアでは、スポーティなリム形状のステアリングホイールや専用のメーターパネル、そして初お目見えとなるシフトセレクターノブなどが目をひく。外観同様、こちらもこれみよがしな所はないが、細部に至る気遣いが感じられて、なかなか居心地が良い。

Eクラスと基本骨格をほぼ共有するCLSではあるが、AMGモデルに関して言えば、両車には大きな違いがある。お馴染みの6.2L自然吸気ユニットを積むE 63 AMGに対して、CLS 63 AMGは先にS/CLクラスのAMGで使われた新開発の5.5L直噴ツインターボユニットを搭載しているのである。

そのスペックは最高出力525ps、最大トルク700Nmと、S/CLクラスのものより控えめだ。しかしオプションのパフォーマンスパッケージを選べば、最高出力は557ps、最大トルクは800Nmまで高められる。ギアボックスはAMGスピードシフトMCT7。ダウンサイジングやスタートストップシステムの搭載などによって、燃費は9.9L/100km(約10.1km/L)を達成している。

フロントにコイルスプリング、リアにエアスプリングを使い、減衰力可変式ダンパーを組み合わせたサペンションは共通だ。ただしステアリングシステムが、ベース車と同じく電動パワーアシストとなる。

画像: 新開発の5.5L直噴ツインターボは、S/CLクラスの544ps/800Nmよりも抑えられている。

新開発の5.5L直噴ツインターボは、S/CLクラスの544ps/800Nmよりも抑えられている。

カーボンセラミックブレーキを装着したメリットは大きい

では、その走りっぷりはどんな仕上がりを見せているのか。まず気になるエンジンは、低回転域からの分厚いトルクの一方で、吹け上がりも軽く、入念に調律したという重低音の迫力あるサウンドを響かせながら一気呵成に吹け上がる、気持ちのいいものに仕上がっていた。トップエンドが6000rpm超あたりまでしか回らず、伸び切り感が味わえないのは惜しいが、パワフルさと緻密なフィーリングはAMGへの期待に応えるものと言えるだろう。

フットワークの印象は大筋で予想どおり、EV63 AMGに近い味わいであると言っていい。重心や着座位置の低さゆえにタイトなフィーリングが増してはいるが、開発陣としてはEクラスとはユーザー層がきわめて近いため、敢えて同じような味になるよう配慮したという。

いずれにせよ手応えに優れ、正確なレスポンスを示す一方で神経質さとは無縁なそのステアリングをもってすれば、どんなコーナーにも自信をもって飛び込んで行ける。前後の荷重バランスに優れ、しかもシャシ性能に余裕があるため、未知のワインディングロードで、コーナーの奥で曲率が深くなっていても、路面が想像以上に荒れていても、進路の修正は容易。この懐の深い操縦性は今のAMGの最大の魅力と言える。

パフォーマンスパッケージも、基本的な性格に劇的な違いがあるわけではない。とは言え、エンジンが低回転域からトルクフルなのは確か。なくても十分だが、一度味わったら選ばずにはいられなさそうだ。ただしサスペンションも相応に締め上げられるので、そのあたりは覚悟がいる。

それより惹かれたのはカーボンセラミックブレーキだ。そのメリットは重量が各輪2.5kgも軽くなること。オプションの鍛造ホイールと組み合わせると各輪4kgもの軽量化となり、乗り心地を劇的に向上させるのである。効きや耐久性まで含めて考えれば、これは高い価格に見合った価値があると言えそうだ。

率直に言って、期待していたより断然気に入った。見た目も走りも、ファンの期待に応える完成度を見せるCLS 63 AMG。日本上陸は2011年の中盤辺りとなりそうである。(文:島下泰久)

画像: Eクラスと同じ基本骨格に、流麗かつ力強いデザインの4ドアクーペのボディを纏ったCLS 63 AMG。試乗は陽光眩しいアメリカ・サンディエゴで行われた。

Eクラスと同じ基本骨格に、流麗かつ力強いデザインの4ドアクーペのボディを纏ったCLS 63 AMG。試乗は陽光眩しいアメリカ・サンディエゴで行われた。

メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG 主要諸元

●全長×全幅×全高:4996×1881×1406mm 
●ホイールベース:2874mm 
●車両重量:1870kg 
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●排気量:5461cc
●最高出力:365kW(525ps)/5250rpm
●最大トルク:700Nm/1750-5000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●最高速:250km/h (リミッター)
●0→100km/h加速:4.4秒
※EU準拠

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