2010年11月、しばらく日本導入が途絶えていたフォルクスワーゲン シャランが3代目となって帰ってきた。豪華さや高級感を競う日本のラージクラスミニバン市場にあって、クルマとしての高い基本性能を追求するその姿勢はいかにもフォルクスワーゲンらしいものだった。Motor Magazine誌では上陸後、間もなく試乗テストを行っている。今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2011年3月号より)

ミニバンとは思えないほど高い操縦性と高速安定性

そして実際、シャランで移動を始めると、それがドライバーズシートであろうと2列目/3列目のパッセンジャーシートであろうと、やはりその感覚が日本製のミニバンの場合とはかなり異なって感じられる。

あらかじめパンクシール剤を挿入したコンチネンタル社製のタイヤを履く影響もあってか、微低速領域では路面凹凸に対する当たり感が少々きついものの、足回りのテイストはいかにもフォルクスワーゲンらしく、高速走行時の安定感は「さすがはアウトバーン育ち」と納得できるものになるし、ドライバーとしてステアリングを握ってみれば、舵の正確性や路面とのコンタクト感がおおよそミニバンとは思えないほど高いことに感心する。

ちなみに、昨今は「ミニバンなのにスポーティ」と謳う日本のモデルも少なくないが、シャランの走りが日本製スポーティミニバンにもまして自由に操る感覚が感じられるのは、どうやらそのトランスミッションに大きな要因があることに気がついた。

デュアルクラッチ式トランスミッションがもたらすダイレクトでリニアな加速感や、日本の環境下で乗ってもまったく違和感を抱かせないシフトプログラミングは、やはり絶品。微低速域での繋がりの滑らかさという点では、わずかながらも一般的なトルコン式ATに軍配が上がる印象もあるが、新採用のアイドリングストップシステムとの組み合わせで実現させた14.0km/Lという優れた10・15モード燃費の実現をはじめとして、その効率の良さと心地の良い走りのダイナミズムの両立という点では、最右翼の存在であることは間違いない。

実は、そんなシャランにもウイークポイントはあって、たとえば強い傾斜を描くAピラーのせいでフロントシートへの乗降時の頭部の運びがややきついことや、それが影響する視界はやや気になるところだ。また、1.4Lという排気量にツインチャージャーが与えられたダウンサイズエンジンは、スタート時のほんの一瞬、やや重さを感じさせる点なども指摘しておく必要があるように思う。

しかし、フォルクスワーゲンらしい足回りが生み出す安心感や、アクセルワークにダイレクトな反応を示す動力性能は、やはりシャランというモデルの唯一無二な部分と言える。そんな基本テイストは、このモデルを「ゴルフのミニバン」という価値観から選ぼうという人にも、きっと満足してもらえるものだろう。

そのブランドが持つ個性と特徴をそのまま何ひとつ減衰させることなく感じさせるミニバンという点では、シャランはいかにもフォルクスワーゲンの作品らしい存在。アルファードやエルグランドとはまさに「異次元のミニバン」ということだ。(文:河村康彦/写真:村西一海)

画像: 驚くべきパフォーマンスを見せる150ps/240Nmの1.4TSIエンジン。最新の環境技術を採用したのも、シャランの大きな特徴。

驚くべきパフォーマンスを見せる150ps/240Nmの1.4TSIエンジン。最新の環境技術を採用したのも、シャランの大きな特徴。

フォルクスワーゲン シャラン TSIハイライン 主要諸元

●全長×全幅×全高:4855×1910×1750mm
●ホイールベース:2920mm
●車両重量:1830kg
●エンジン:直4DOHCターボ+S/C
●排気量:1389cc
●最高出力:110kW(150ps)/5800rpm
●最大トルク:240Nm(24.5kgm)/1500-4000rpm
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●駆動方式:FF
●10・15モード燃費:14.0km/L
●タイヤサイズ:225/50R17
●車両価格:438万円(2011年当時)

フォルクスワーゲン シャラン TSIコンフォートライン 主要諸元

●全長×全幅×全高:4855×1910×1750mm
●ホイールベース:2920mm
●車両重量:1830kg
●エンジン:直4DOHCターボ+S/C
●排気量:1389cc
●最高出力:110kW(150ps)/5800rpm
●最大トルク:240Nm(24.5kgm)/1500-4000rpm
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●駆動方式:FF
●10・15モード燃費:14.0km/L
●タイヤサイズ:215/60R16
●車両価格:379万円(2011年当時)

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