日産の新たな挑戦が生み出した高級パーソナルカー
新機軸が目立つも旧弊なL型エンジンがネックに
スペシャリティカーという分野では、すでにシルビアで十分な実績を持っていた日産だが、昭和55 (1980)年の9月にレパードと名付けられた新型車種が登場したことで、ユーザーの選択肢は大きく広がった。
販売店の関係で、異形ヘッドライトのレパードと角形4灯ヘッドライトのレパードTR ーX(トライエックス)がラインアップされたが、基本的にはどちらも同じモデルである。
レパードに設定されたボディは、6ライトウインドウを大きな特徴とする4ドアハードトップと、2ドアハードトップの2種類。2代目のレパードでは4ドアボディは廃止されていたが、この初代レパードの販売実績で実際に大勢を占めたのは4ドアボディのほうだった。
エクステリアから見ていくと、柔らかい曲線とシャープな直線を融合させたフォルムにより、ダイナミックなイメージを表現している。
当時の国産車最大のスラント角26.5度を与えられたノーズ、フラッシュマウントモールディング、バンパー一体型の大型エアダムなどの採用により斬新なスタイリングコンセプトでまとめられ、空力特性の面でも最先端であった。実際に発表されたCd値=0.37は純粋なスポーツモデルと比較しても遜色のない数値となっている。
ボディには高張力鋼板を大量使用(約70kg)するとともに、樹脂部品を多用し、車両重量の軽減化を図っている。さらにカチオン電着塗装、亜鉛メッキ鋼板の採用などで、防錆対策にも配慮している。
インテリアに目を移すと、世界初となるマルチ電子メーターやドライブコンピューターなどを組み込んだのが注目される。基本的な部分として、ドライビング時に身体をしっかりとサポートするシートを装備。
ハイテクデバイスも最高級スペシャリティカーにふさわしいもので、オートスピードコントロールなど、斬新な装備が数多く採用されている。日本初となるオートボリュームコントロールによるスーパークオリティサウンドシステムなど、当時としては図抜けた快適性装備を誇った。
さらにこのSF-Lでは、乗車人数や荷物などの積載条件に伴う車高変化を防ぎ、車高を一定に保つ国産車初のオートレベライザーを採用するなどの革新性も持っていた。
搭載されたエンジンは、レパード全体のラインナップではZ18型、L20E型、L28E型の3種類となっていた。280X・SF-Lには最も高性能なL28E型が搭載された。これに電子制御燃料噴射装置のECCSとの組み合わせで、145ps//5200rpmの最高出力を発生している。
スペックとしてはけっして悪いものではない。ただし、斬新なスタイリングに対して、上級グレードに搭載されるのが直6とはいえ、L28型だったのは新鮮さに欠けた感はいなめない。
トランスミッションは、5速MTとニッサンマチックと名付けられた3速ATをチョイスすることができた。
サスペンションは日産が得意としてきたフロント:ストラット、リア:セミトレーリングアームの4輪独立式で、当時としては最善の組み合わせと言える。フロントのサスペンションジオメトリーは、ゼロスクラブとしてある。
こうすると、操舵するとホイールはタイヤの接地中心を軸に回ることになり、走行中はステアリング操舵力が軽く、キックバックは少なくなる効果がある。
合わせてステアリングギアボックスはラックアンドピニオン式とし、スチールラジアルタイヤを採用したことで、優れた操縦安定性を実現した。
ブレーキシステムはフロントにベンチレーテッドディスク、リアにディスクという組み合わせだ。さらに大型マスターバックを装着することにより踏力を軽くしつつ信頼性を高めている。
昭和56(1981)年7月には、ターボモデルが追加された。L20ETというおなじみのエンジンだが、初めてECCSと組み合わされた。145psという最高出力値こそ変わらないが、追い越し加速や燃費などが向上した。
この後レパードは昭和59(1984)年6月にVG30ターボを積んだ最強バージョンも登場したが、すでにモデル末期。2代目への橋渡しの感もあった。とはいえ、レパードの登場で、日本のスペシャリティカーの定義は変わった。高級スポーツカーと呼びたくなる革新的な1台だった。
日産レパード280X・SF-L(HF30型)諸元
●全長×全幅×全高:4630×1690×1335mm
●ホイールベース:2625mm
●車両重量:1290kg
●エンジン型式・種類:L28E・直6SOHC
●排気量:2753cc
●最高出力:145ps/5200rpm
●最大トルク:23.0kgm/4000rpm
●トランスミッション:5速MT
●タイヤサイズ:195/70HR14
●新車価格:262万円