購入層を一気に35歳付近にまで下げようという狙い
日本とドイツの自動車市場で、もっとも大きく違うのは新車の購入年齢層だと思う。まずドイツで新しい車を買う人、買える人の平均年齢は経済的な条件を考えると45歳以上だ。そしてこれがメルセデス・ベンツなどでは、一気に10歳は上がってしまう。いわゆるオヤジといわれる範疇である。さらに2ドアクーペでは60歳近くなるはずだ。ここまでくるとオヤジを通り越して、「オジイさん」と言われそうだ。
それでも子供たちが手を離れ、定年間近、あるいは退職して長い間連れ添った奥さんと一緒に気兼ねなくクーペでツーリングというのは、確かに余裕が感じられ、カッコいい。
しかしメルセデス・ベンツも、そこに甘んじているわけにはいかない。オーナーの若返り策は必要で、若い人たちにもアピールするモデルは必須である。そこで、これまでのEクラスクーペに加えて、Cクラスをベースにした2ドアノッチバッククーペをプログラムに加えた。できれば購入層を一気に35歳付近にまで下げようとしている。
チーフデザイナー、ゴーデン・ワーゲナーが指揮したデザインは基本的にはCクラスの延長だが、ルーフをリアアクスルの後方までなだらかに流し落とし、高さを41mm低めてスポーティなクーペプロポーションを作り上げている。とくに凝った演出はないが、古典的な形でおそらく20年経っても飽きがくることはないだろう。
インテリアもスポーティな雰囲気を作り上げるために、セダンとは異なるデザインが与えられている。とくに目立つのがスポーティなシートで、ヘッドレストが一体化されている。さらにリアにもセパレートシートが用意されている。
またドライバーとのもっとも重要なインターフェースとなるステアリングホイールは、CLSで紹介されたマッシブなアルミスポークを持ったスリースポークタイプが採用されている。インストルメントパネルは中央に巨大なスピードメーター、そしてその右にタコメーター、また左にはコンビネーションメーターを従えた古典的なメルセデス流レイアウトになっている。
感心したのはクーペというカタチをとっていながらキャビンは広く、フロントシートには余裕があり、さらにリアシートは大人ふたりが無理なく乗ることができるほどの余裕があること。またトランク容量は450Lで、ほぼセダン並みの荷物を搭載できる。

C250 クーぺ ブルーエフィシェンシー。AピラーからCピラーにかけてのラインが円弧のように流れる。セダンと共通性のあるリアコンビによりワイド感を強調。
セダンとは異なるスポーティな挙動を見せたC250クーぺ
さてスペインのセビリアで開催された試乗会で、筆者が最初に選択したのはC250ブルーエフィシェンシーと呼ばれるモデルだった。搭載エンジンは第3世代のピエゾ・ガソリン直噴システムを装備した4気筒ターボで、排気量は1796cc、最高出力は204ps、最大トルクは310Nmを発揮する。組み合わされるトランスミッションは7Gトロニックプラス、従来から存在していた7速オートマチックにアイドリングストップ機能を搭載したニュータイプである。
実を言えば当初、このCクラスクーペに対してはあまり期待していなかった。というよりも単なる「2ドアのCクラスではないか」と、ちょっと高を括っていたのだ。
ところが走り出して、セダンとは異なるスポーティな挙動に、少々驚いてしまった。サスペンションは前後ともにマルチリンク、そこにアジリティコントロールと名付けられたシステムが存在する。それはサブチャンバーを持ったダンパーが大きな役割を果たしている。このダンパー内に設けられたバルブが開閉することにより、路面からの入力スピードとストロークに応じてダンピングフォースがプログレッシブに変化するのである。
おかげで4本のタイヤは決して路面を離れることなく、非常に確かなロードホールディングを約束してくれる。またロックtoロック2回転半のメカニカル可変システムを持ったステアリングフィールは正確で、しかも可変システムのおかげで、きついコーナーに飛び込んでもハンドルから手を離す必要はない。またスポーティだが直接の突き上げなどは見事にいなし、どんな路面でもメルセデス・ベンツらしい乗り心地は常に約束されていた。
さて、メルセデスに乗って感じるのは、やはり「安全」である。コンビネーションメーター内にはドライバーの疲労を感知するアテンションアシスト、前車との車間距離を監視・コントロールするディストロニック、そしてレーンデパーチャーウォーニングなどが、このエントリークーペにもしっかりと装備されており、効果的にドライバーへ安全運転を促す。
ところで燃費だが、オンボードコンピュータによれば307kmを平均75.1km/hで走り、燃料消費は100kmあたり13Lジャスト、つまり、およそ7.7km/Lということになる。メルセデスの公表によれば、100kmあたり7Lだから、かなり悪いことになってしまった。しかし今回のテストは高速道路では110km/hを保って走ったものの、後半の3分の2はアップダウンの多い山間の峠道で、かなり過酷な走行パターンだった。それゆえにこれ以上悪化することがないことはまず確かである。このクーペの日本への導入は、早ければ今年の秋になるだろう。

C250 クーぺ ブルーエフィシェンシー。インパネはセダン/ワゴンと共通。ハンドルは新型CLSで採用になったものと同様でセンターがクローム仕立ての3本スポークタイプ。