Gen3 Evoと戦略改革
「レースの魅力は音。エンジン音のないレースなんて面白いのか?」。2014年にスタートしたフォーミュラEに対し、開始前からそんな声が上がっていた。スタート当初はさまざまな課題を抱えていたが、技術の進化とファンを惹きつける施策を実行するスピード感は、目を見張るものがあった。そして何より、エンジンかモーターかに関係なく、競争心や勝利への執念など、「ヒューマンスポーツ」である本質は変わらないことを示してくれたカテゴリーでもある。

駆動方式や電気とハイブリッドなど単純な比較はできないが、0-100km/h加速においてはモータースポーツの頂点に立つF1を凌ぐ。
2025年のフォーミュラEを語る上で、まず触れなければならないのが「Gen3 Evo」の存在だ。最大出力は350kW。フロントにも駆動モーターを搭載し、加速時には四輪駆動に。0-100km/h加速はわずか1.82秒で、F1マシンすら凌駕する。
エネルギーマネジメントも格段に進化した。合計600kWの回生ブレーキにより、レース中に使用する電力量の約50%を自給可能。モーターの効率は95%に達し、内燃機関が理論上到達できる上限(約40%)をはるかに上回る。
さらに、タイヤには持続可能性を追求した新型ハンコック製を採用。リサイクル素材を活用しつつ、パフォーマンスとの両立も図っている。
こうした技術革新に伴い、戦略面にも大きな変化があった。最大のトピックは、新ルール「ピットブースト」の導入だ。これは、レース中に義務づけられた30秒間の急速充電ストップで、バッテリー残量の約10%を補充できるというもの。この短時間の充電がレース結果に大きな影響を与えるだけでなく、ドライバーとチームに高度な判断力を求めることになる。
どのタイミングでピットブーストを使うか。ライバルの戦略とどう差別化するか。アタックモードとの併用や、回生ブレーキとのバランスなど、フォーミュラEでは単なる速さだけでなく、戦略が極めて重要なファクターとなっている。