2011年、好評価を得ていた6.2L自然吸気ユニットに代えて、新たに5.5L V8ツインターボエンジンを搭載したメルセデス・ベンツ「E63AMG」が欧州で発表された。最高出力は524psと変わらず、燃費は22%も向上したという「E63AMG」はどんな走りを見せたのか。ここではフランス・ポールリカールサーキットで開催された国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2011年9月号より)

従来型に勝るとも劣らない鮮烈な動力性能

2010年春に発表された「オール新開発」を謳う5.5Lツインターボ付直噴エンジンへの、「63」の車名が冠されたAMG車のエンジン世代交代プログラムが佳境を迎えつつある。

そんな新開発のV型8気筒ユニットは、総排気量が5461ccと、自然吸気方式を採用し高回転・高出力型特性が売り物だった6.2Lユニットに比べると747ccのマイナス。吸排気バルブの駆動はバルブタイミング機構を介して行い、新採用の直噴システムは精細でレスポンスの良い燃料噴射を特徴とするピエゾインジェクターを用いたスプレーガイデッド方式。両バンクのエキゾーストマニホールドに溶接された2基のターボチャージャーは最高18万5000rpmで回転、標準では最大1バール、オプション設定のパフォーマンスパッケージを選択すると最大1.3バールの過給圧を発生する。

それにしても、こうしたニュースを耳に「一体どうして?」と思う人も少なくないだろう。なぜならば、自然吸気エンジンを搭載した「63シリーズ」は、決してまだ「旧いモデル」などではなかったからだ。

実際、6.2Lエンジンが登場したのは5年ほど前のことに過ぎない。圧倒的なパワフルさや突き抜けた高回転フィールなどで評価も高かった「大排気量の自然吸気エンジン」に、早くも引導が渡されることになった理由は何なのだろう。

その唯一最大の理由として考えられる要因は、ズバリ「燃費の向上=CO2排出量の削減」という昨今話題の事柄。とくに今のヨーロッパでは、今後急速に厳しさを増すブランドごとの燃費規制を切り抜けるべく、この課題に向けての対応がそれほど急務になっているというわけだ。

新しいE63AMGももちろん、その課題に対応すべくエンジン載せ替えが決断された1台。実際、そこで聞かれるのは「燃費向上率もCO2削減率も、NEDC計測法で従来の6.2L時代に比べ22%」というフレーズだ。ちなみに、それを受けて燃料タンクも従来の80Lから66Lへとダウンサイズ(80L仕様はオプション設定)。それは、AMGがこの「カイゼン」にいかに自信を抱いているかの裏づけと言ってもよい。

もっとも、6.2Lユニットも自然吸気の高回転・高出力型というキャラクターが生かされてSLS AMGや先般発表されたC63AMGブラックシリーズには搭載されている。必ずしも「即座に葬り去られる」というわけではないようだ。

かくしてエンジン換装が行われ、環境性能の大幅向上が謳われる新エンジン搭載のE63 AMG。しかし、それによって走りのポテンシャルがダウンしては元も子もない。しかし、南仏のサーキットと一般道でテストドライブしたこのモデルは、従来型に勝るとも劣らない鮮烈な動力性能を堪能させてくれることになった。

画像: E63 AMGセダンはNEDC総合燃費で10.2km/L でCO2排出量は230g、E63 AMGステーションワゴンは10.0km/L、CO2排出量は234gとなる。

E63 AMGセダンはNEDC総合燃費で10.2km/L でCO2排出量は230g、E63 AMGステーションワゴンは10.0km/L、CO2排出量は234gとなる。

加速力は超一級、その一方で高い快適性もキープ

走り始める以前の、エンジンに火を入れた段階で「安心」させてくれたのはサウンドだ。一般に、排気エネルギーを回収するターボチャージャーを備える心臓は、その分、排気サウンドが「大人しくなる」のが通例。しかし、嬉しいことにこのモデルは数少ない例外。かつての6.2L時代に負けない、迫力のV8サウンドを耳に届けてくれた。

トルクコンバーターに替えて湿式多板クラッチをスタート用に採用した7速ATは、自動変速モードではトルコンAT同様のスムーズさを演じると同時に、コンソール上のダイヤル式セレクターで『M』モードをチョイスすれば、パドル操作でMT風味の強いダイレクト感溢れる駆動力の繋がりを味わわせてくれる。一方、常用シーンでは2速発進を行う『C』モードで、標準装備とされたアイドリングストップファンクションが有効になる。

肝心の加速力が、6.2L時代と同様に「文句なしの超一級品」であることは、F1マシンのテストも行われることで知られるポールリカールサーキットでの走りで証明された。今回のテスト車が「パフォーマンスパッケージ」付きセダンだったという点も有利に働いていようが、この「めくるめくような速さ」は並外れたものだ。

またその一方で、メカニカルサスをフロント、エアサスをリアに採用したそのフットワークは、例え電子制御の可変減衰力ダンパーをスポーツ側にセットをしたとしても、いかにもラグジュアリーセダンとして相応しい快適性をキープし続けるのだから恐れ入る。

セダン/ステーションワゴンとしては常識外の動力性能を、しかしきちんとメルセデス車のキャラクターの中にまとめてしまう。E63 AMGに乗ると、この手腕こそが「AMGマジック」なのだと改めて教えられることになる。(文:河村康彦)

画像: 従来の6208ccV8自然吸気から5461ccV8ツインターボエンジンに変更。最高出力は524psと変わらず、最大トルクは従来比+70Nmの700Nmとなっている。

従来の6208ccV8自然吸気から5461ccV8ツインターボエンジンに変更。最高出力は524psと変わらず、最大トルクは従来比+70Nmの700Nmとなっている。

メルセデス・ベンツ E63 AMG 主要諸元

●全長×全幅×全高:4883×2100×1440mm 
●ホイールベース:2874m 
●車両重量:1840kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●排気量:5461cc
●最高出力:386kW(524ps)/5250-5750rpm
●最大トルク:700Nm/1750-5000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●0→100km/h加速:4.2秒
●最高速度: 250km/h(リミッター)
※EU準拠

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