だが、決して最速のマシンという訳ではない。そのスタイリング、ハンドリング、エキゾーストノート。そのどこに惹かれているのだろうか。どうしてアルファを駆るのだろうか?(MotorMagazine 2025年9月号より。文:嶋田智之/写真:永元秀和、佐藤正巳、ステランティス)
アルファロメオ「らしさ」とは?
ちょっと前のお話だ。とある自動車メディアの関係者がトナーレMHEVから降りてきて、「アルファロメオらしくないよね。だって、そんなに速くないじゃん。同じクラスのクルマたちと、そう変わらないでしょ」と言い放った。僕は近くでたまたまそのセリフを耳にして、「ん?」と思った。
なぜかと言えば、一般市販車としてアルファロメオが「いちばん速い」みたいなことなんて、歴史上ただの一度もなかったからだ。すべてのプロダクションモデルがそこそこ速い、あるいはそこそこ以上に速いのは事実だが、ライバルたちと比べてあきらかに速いモデルというのが存在してこなかったというのも、また事実なのだ。

1950年に開催された第1回F1世界選手権英国GPでアルファロメオのTipo158を駆るジュゼッペ・ファリーナがPPから優勝した。
もちろんモーターレーシングの世界を戦うために生み出されたマシンたちは違う。それは第1次世界大戦前の自動車メーカーとしての黎明期から近年までの間に勝ち得た、数々の栄冠が証明している。最初のF1世界選手権、1960年代のツーリングカーレース、1970年代のスポーツカーレース、1990年代から2000年代頭にかけてのツーリングカーレースなど、勝ち星のみならずタイトルをいくつ手にしたことか。

ジュリアスプリントGTAは1966年から69年までヨーロッパツーリングカー選手権で4年連続でチャンピオンを獲得した。
けれど、市販されたアルファロメオに視線を移してみると、尖ったモデルであっても、そういうわけじゃなかったことがわかる。たとえば2006年デビューの8Cコンペティツィオーネは、もっとパワーを増強することも技術的にはできたけれど、あえてパワーを抑えている。2013年発表の4Cも、異様に軽かったもののライバルたちよりはるかにアンダーパワーで、違った狙いがあることがわかる。2021年登場のジュリアGTA/GTAmも、クアドリフォリオから大幅に進化してはいるけれど、振り絞ったようなチューンナップはなされていない。
いずれもそれ相応な速さを持ってはいても、それぞれ「いちばん速い」わけじゃなかった。しかもそれらは普通の人でも買える市販モデルではあったけれど、限定車だったり乗り手を選んだりで、あきらかに特殊な部類。一般的なプロダクション・アルファに至っては、推して知るべし、なのだ。
