文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
▶▶▶写真はこちら|ダッジ「WCコマンドビークル」現存車の詳細(画像10枚)
一見するとジープ風だが、車格と役割は大きく異なっていた
第二次大戦後、アメリカは戦勝国だっただけに多くの軍需製品・物資が残りました。クルマ好きならウィリスジープが山ほど放出され、今でも現役で走っていることなど先刻ご承知でしょう。しかし、当時の戦場にはジープの影に隠れながらも、よりタフで、より重要な任務を課せられた「もうひとつの傑作四駆」が存在していました。それが、ダッジWCシリーズで、一見するとジープを一回り大きくしたようなスタイルですが、その中身や背景はジープとはいささか異なるもの。かのパットン将軍も乗っていたとされるレア車をご紹介しましょう。

1942年製ダッジWC3/4コマンドビークルは、総生産台数2万台ほど。ミリタリーマニアの間でも上がりの1台とされているとか。
ダッジWCとウィリスジープの最大の違いは、車両の「クラス(サイズ・重量)」と「運用の目的」にあります。ミリタリーの世界における車両のクラス分けは、車体の重さではなく「悪路で安全に積載できる貨物の最大重量(ペイロード)」で表記することがデフォルト。ジープが「1/4トン(約226kg)」クラスであるのに対し、ご紹介している1942年型のダッジWCは「3/4トン(約680kg)」クラス。つまり、ダッジはジープの3倍の積載能力を持つ中型高性能トラックなのです。

車幅2.1メートル程度と、ウィリスよりもかなり大きな車体。それゆえ、無線機や火器の積載に重宝されました。
戦場ではそのサイズ感から、ジープが「Peep(ピープ:覗き見=偵察車)」と呼ばれたのに対し、ダッジWCは「Beep(ビープ:BigJeep=大きなジープ)」の愛称で親しまれました。スペックを比較すると、ジープの車重が約1トン、60馬力の4気筒エンジンを搭載していたのに対し、ダッジWC(指揮車両型:WC-56)は車重約2.4トン。3.8L直列6気筒(T214型・約92馬力)という強力なエンジンがチョイスされました。ジープが前線を俊敏に駆け回る連絡・偵察車だとすれば、ダッジは重装備を確実に運ぶためのタフガイだったという感じかと。

横置きされた3.8リッター直6エンジンは約92馬力。ダッジのトラック用エンジンとして開発され1942~1945年まで供給されました。
創業期からダッジWCコマンドビークルへ至るまで
このタフネスぶりは、ダッジが長年培ってきたトラック製造の歴史抜きには語れません。
1914年の創業期から、商用トラックや乗用車ベースの軍用車両を製造していた名門とされ、第1次世界大戦ではすでにアメリカ軍に数千台の車両を納入。1930年代には近代的な四輪駆動トラックの開発にも着手していました。つまり、ダッジにとって頑丈なトラックや四駆を作ることは、お家芸とも言える得意分野だったのです。
第2次世界大戦が始まると、アメリカ陸軍は当初、ダッジの民間用トラックを改造した四駆(VCシリーズなど)を暫定的に導入しました。が、急速に近代化・激化する戦場において、民間ベースの車両は耐久性不足を露呈します。
そこでダッジは、「最初から軍用として完全専用設計」したWCシリーズを1941年に開発。当初は1/2トンクラスとしてスタートしたものの、戦場からの「より多くの兵員と重装備を運びたい」という要求に応え、1942年にはシャシーをさらにワイド&タフに進化させた「3/4トンクラス」へと大型化。これこそが、ご紹介している決定版ダッジWCコマンドビークルの誕生でした。

ホイールトラベルの余裕や、最低地上高を見れば商用トラックの流用でないことが歴然とします。

ホイールトラベルの余裕や、最低地上高を見れば商用トラックの流用でないことが歴然とします。
わずか2万台の指揮官仕様、200万円前後で買えるかも?
過酷な戦場を駆け回るのに機敏なジープが選ばれなかったのは、やはりペイロードが少なかったからとされています。大戦期の近代戦は、戦線が広大かつ高速に移動する「電撃戦」の時代。司令官や高級将校(大佐や将軍クラス)には、刻々と変わる戦況を現場で把握するため、前線を巡回する「走る司令部」が不可欠となったのです。
しかし、ジープの狭い車内では、大型の無線機や作戦マップ、そして複数の随行スタッフや護衛兵を同時に乗せることができません。そこで、広い車内スペースと圧倒的な悪路走破性を両立していたダッジの3/4トンシャシーに白羽の矢が立ったということ。
こうして生まれた指揮車両(WC-56/57)は、ドアを持たず、周囲を見渡せるパノラマ視界を確保した折りたたみ式の幌を備えていました。かのジョージ・パットン将軍もこのダッジWCを愛用し、装甲板や重機関銃、さらには進軍を知らせるサイレンを増設したカスタム仕様で前線を駆け巡ったエピソードはミリタリーマニアの間では有名なエピソード。

軍用車らしく最低限のシンプルなコクピット。もっとも、当時の商用車はたいていこんな雰囲気だったかと。

リヤシートは高級将校のほか、無線機と通信兵が使用する場合もあったとか。ウィリスの後席に比べると、広くて、いくらか快適そうではあります。
オークションに出品されたサンプルは、まさにこの激動の時代に製造された歴史の生き証人。希少性という点でも、ウィリスの約64万台に対して、ダッジは約35万台。そのうち、指揮官仕様はわずかに2万台ほど。ジープとは異なる「頼れる兄貴分」としての存在感は、今なお色褪せないモデルゆえ、ミリタリーマニアからもあがりの1台とされているのも納得です。そのわりに、予想落札価格は8000~1万2000 ユーロ(約150万〜220万円)とかなり魅力的なオファー。下手なSUVに乗るよりも機能的でカッコいいかもしれません。

いかにもミリタリーチックなステンシル。パットン将軍は兵士の士気を上げるために、星3つの階級章を掲げていたそうです。

WCはシャシーと4×4システムの強化が施されており、ウィンチもそのぶん強力なものにアップグレードされています。
おすすめ関連記事





