レース仕様のポルシェをほぼそのまま、公道に合わせて最小限のモディファイを加える……。そんなスペシャルなモデルはいくつか聞いたことがあっても、ここまでガチなものはほとんど例がありません。しかも世界に2台しか現存しないのに、そのうちの1台がド新車で出現したとなれば──。

文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
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限界までカスタムされた究極のエンジン

ポルシェの特注部門は、エクスクルーシブ・ディビジョンとかカスタマーカウンターなどと呼ばれていますが、ここからデリバリーされたクルマは言うまでもなくスペシャルなものばかり。中でも、1995年に納車された911カレラRSR3.8ストリートバージョンは後にも先にも2台しか作られなかった幻のようなモデル。走行距離10キロ足らずのド新車で発見されたとなったら、8億円の値がついたというのも大いに納得です。

画像: 1993年にホモロゲーション認定を受けた911カレラRSR3.8をそのまま公道仕様にしたストラッセン・バージョン。

1993年にホモロゲーション認定を受けた911カレラRSR3.8をそのまま公道仕様にしたストラッセン・バージョン。

1990年代の初頭、ポルシェは何度目かの財政難に陥りながら、GTカテゴリーに参戦することを決断。というより、それまで無双を誇っていたグループCが先細り&消滅してしまったことで「宣伝活動」の場をGTに求めた、と言うほうが正確でしょうか。ともかく、財布がさみしいバイザッハですから、手っ取り早く既存の964RSをベースにレーシングカーの開発を進めたのでした。

車名の通り排気量は3.6リッターから3.8リッターに拡大しつつ、チタンコンロッドの採用や、オイルジャーナルを2倍にしたクランクシャフトなどで高回転時の耐久性を確保。もっとも、連棹比は3.6と同一(1.66)ボアは102mmと(フラットシックスとしては)ほぼ限界に到達しており、よくもル・マンやニュルブルクリンクで24時間も闘えたものだと感心せずにはいられません。

バイザッハなりに耐久性を担保すると、次はアウトプットにも工夫が凝らされました。6連スロットルやツインイグニッションといったレン・シュポルトらしいカスタムによって、380psを確保。エアリストリクターへの対応も、これらのセッティングでいかようにも出来たとされています。

なにからなにまでレース仕様のまま公道へ

ご覧の通りボディはターボフレアを用いたワイドボディ。964ターボと同系統と言ってしまえばそれまでですが、市販車と違ってタイヤハウス内はより広く作られ、どうやらスポット溶接の数を増やすといった強化もなされている模様。無論、レギュレーションに沿ってエアジャッキや競技用ガソリンタンクなどを標準装備しています。

画像: RSR3.8のレース活動が終了した1996年に納車され、それ以来ずっとコレクターのもとで眠り続けてきたまっさらの新車です。

RSR3.8のレース活動が終了した1996年に納車され、それ以来ずっとコレクターのもとで眠り続けてきたまっさらの新車です。

驚くべきは、今回ご紹介しているストリートバージョンについて、これらのレース仕様シャシーはもとより、エンジンまでレースチューンのまま搭載されていること。これまでも、グループCカーの962や、プロトタイプカーの910や907を公道仕様に仕立てたクルマはありましたが、たいていは公道で乗りやすくデチューンされていたはず。

画像: 公道仕様といってもM64/04エンジンはル・マンやニュルを闘ったセッティングと同一。380psが保証された究極のフラット6です。

公道仕様といってもM64/04エンジンはル・マンやニュルを闘ったセッティングと同一。380psが保証された究極のフラット6です。

燃料タンクこそ、ツーリングを想定しての120リッターの容量へと変更されているものの、ハードに関しての改装はこれだけ。なるほど、気合の入ったコレクターというのがいるものです。

インテリアはフランス好みのテイスト

ただし、インテリアに関してはレースカーとはまったく違ったベクトルで仕上げられています。フルロールケージが組まれつつ、手が触れるところはすべてガーズレッドのレザーで覆われ、いかにも豪勢なストリート911といった雰囲気。それでも、手動ウィンドウや薄手のプレクシグラスなどレン・シュポルトのDNAはそこかしこにちりばめられています。オーナーはフランス人だったようですが、ポーラーシルバーのボディにガーズレッドのインテリア、おまけにホイールはアメジストメタリックというセンスには脱帽です。

画像: 外観はレーシングカーそのものながら、インテリアはガーズレッドのレザーでフルトリムされたゴージャス仕様。

外観はレーシングカーそのものながら、インテリアはガーズレッドのレザーでフルトリムされたゴージャス仕様。

なお、レーシングポルシェのドライバーであり、欧州GTシリーズの創始者も務めたユルゲン・バルトは自身の著書で、匿名としながらこのオーナーとストリートバージョンについても言及しています。ちなみに、バルトの奥様はフランス人ということもあり、コレクターとも気脈が通じていたのかもしれません。

新オーナーは7億円以上を支払った

前述の通り、このストリートバージョンは1995年に納車されて以来、ずっとコレクターのもとで眠っていたとのこと。それゆえ、納車時の走行10キロのみで、ほこりをかぶっているものの、その下には出荷時の簡易コーティングがそのまま残っているのだとか。

画像: 納車されてから30年以上、コレクターのもとで寝かされており、埃汚れの下には納車時の簡易コートが残っているのだとか。

納車されてから30年以上、コレクターのもとで寝かされており、埃汚れの下には納車時の簡易コートが残っているのだとか。

近頃のバーンファインドにあやかったのか、オークション出品時はそんなダーティな状態のまま。それでも、立ち上るレン・シュポルトだけが持つオーラは強烈なもの。誰もが、エンジンに火を入れて、3.8リッターの咆哮を耳にしたくなるはず。ですが、それができるのは349万2500ポンド(約7億7000万円)を支払った新オーナーだけ。現実離れした価格でしょうが、911カレラRSR3.8 ストリートバージョンもまた幻のようなもの。きわめて合理的な取引だったといって過言ではないでしょう。

画像: ホワイトパネルに変更されたオドメーターには納車時の走行距離、10キロ程度しか刻まれていません。

ホワイトパネルに変更されたオドメーターには納車時の走行距離、10キロ程度しか刻まれていません。

画像: 公道仕様ということで、ハード面で唯一変更されたのが120リッターの燃料タンク。これでツーリングも安心でしょうか!?

公道仕様ということで、ハード面で唯一変更されたのが120リッターの燃料タンク。これでツーリングも安心でしょうか!?

画像: ホイールはおなじみのスピードライン製3ピース、18インチを装着。ピレリのカットスリック?もまた納車時のままだそう。

ホイールはおなじみのスピードライン製3ピース、18インチを装着。ピレリのカットスリック?もまた納車時のままだそう。

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