わずか232台のみが生産されたというステージ1仕様のコンバーチブル。1970年型のみが許された狂暴なパフォーマンスを有し、「タキシードを着たゴリラ」と称されたビュイックGS455の中でも特にレアな1台を取り上げます。

文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
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7.5リッター(455キュービックインチ)を解放した日

1960年代、GMが自らに課した自主規制によって、フォードやクライスラーに大きく後れを取ったこと、アメ車フリークならよくご存じかと。これはコルベットのステイタスを守るべく、インターミディエイト(中型車)に搭載するエンジンの排気量を6.6リッター(400ci)までとしたもので、その間にライバルたちは次々と大排気量のマッスルカーをリリース。コルベットどころか、会社そのものが危機に瀕するほどだったとされています。そんな局面を打破したクルマこそ、1970年のビュイック・グラン・スポーツでした。

画像: 1970年モデルのビュイック・グランスポーツ・コンバーチブル。ステージ1と呼ばれるハイチューンがなされたレアモデル。

1970年モデルのビュイック・グランスポーツ・コンバーチブル。ステージ1と呼ばれるハイチューンがなされたレアモデル。

GMが自主規制に縛られている間、クライスラー陣営が、440や426ヘミといった大排気量モンスターでストリートを席巻するのを、GMのエンジニアたちは歯がゆい思いで見ていたに違いありません。エンジニアどころか、首脳陣までもが自らの決定にダウトを叩きつけ、ついに1970年に規制解除に踏み切ったのでした。

GMの各ディビジョンは一斉に動き出し、シボレーはシェベルに454を載せ、ポンティアックもGTOに455を投入。そして、GMきっての高級ブランドであるビュイックが放ったのが、この「GS(グラン・スポーツ) 455」だったのです。開発陣が温めていた7.5リッター(455ci)という怪物が、ついに解き放たれたのです。

もっとも、翌1971年には排ガス規制や低レギュラーガソリン化の波が押し寄せ、マッスルカーは一斉にパワーダウンを余儀なくされます。つまり、この1970年というわずか1年間だけが、大排気量V8のピュアなパワーが極限まで許された「奇跡のエアポケット」だったといえるでしょう。

画像: 1973年まで生産されたものの、排ガス規制と無鉛ガソリンへの対応でパワーダウン。それゆえ、1970モデルが至高と呼ばれるのです。

1973年まで生産されたものの、排ガス規制と無鉛ガソリンへの対応でパワーダウン。それゆえ、1970モデルが至高と呼ばれるのです。

公称出力を大きく超えたステージ1仕様

ビュイックというブランドは本来、医師や弁護士といったハイソサエティな人々が乗るラグジュアリーカー。そのため、若者が荒々しく乗るシボレーやダッジとは、佇まいからして違います。上質なレザーシートに美しい木目調パネル、快適なエアコンを備えた、まさに紳士の乗り物といった評判。

画像: 7456ccの90度V8は360hpがカタログ値ながら、保険会社を欺くもので、実際は400~430hpを発揮したとされます。

7456ccの90度V8は360hpがカタログ値ながら、保険会社を欺くもので、実際は400~430hpを発揮したとされます。

しかし、ひとたびアクセルを踏み込めば、その本性が暴れ出して「タキシードを着たゴリラ」などとあだ名されることも。特に、ファクトリーチューンが施された「ステージ1」パッケージは別格で、大径バルブやハイリフトカム、専用のロチェスター・クアドラジェット4バレルキャブレターなどを装備し、公称最高出力は360馬力に及んでいます。

しかしながら、これはちょっとしたフェイクで、当時の高騰する保険料や規制当局の目を欺くために、自動車メーカーは出力を過小評価(アンダーレイテッド)して公表するのが常套手段だったのです。実際のステージ1は、優に400馬力を超えていたとされています。

画像: タキシードを着たゴリラと称されるように、インテリアはレザーとウッドを使ったエレガントな雰囲気をまといます。

タキシードを着たゴリラと称されるように、インテリアはレザーとウッドを使ったエレガントな雰囲気をまといます。

当然、トルクも凄まじいもので、最大トルク510lb-ft(約691Nm)を、わずか2800rpmという低回転で発生。これは当時、キャデラックの超大型高級車を除けば、ヘミ・クーダを含むあらゆるマッスルカーを凌駕する世界最強の数値で、まさに「路面をむしり取る」ような加速を見せたのでした。

画像: 4ATのシフターはホースシューとかU字スタイルなどと呼ばれ、エレガントなのかマッスル風なのかわかりづらいタイプ。

4ATのシフターはホースシューとかU字スタイルなどと呼ばれ、エレガントなのかマッスル風なのかわかりづらいタイプ。

クーペの10分の1しか生産されなかった理由

今回スポットを当てた「コンバーチブル」は、その狂暴なパフォーマンスを、解放感とともに味わえる究極の1台。1970年型ビュイックGS455の中で、このステージ1仕様のコンバーチブルは、わずか232台しか生産されていません。やはり、正統的なマッスルカー好きはハードトップを好んだこと、そしてコンバーチブルになったぶん上乗せされた価格が理由かと。

画像: フルレザーシートは標準で4ウェイオートが装備され、GMの上位ブランドとしてのステイタスをアピール。

フルレザーシートは標準で4ウェイオートが装備され、GMの上位ブランドとしてのステイタスをアピール。

当時のクーペが3280ドルだったのに対し、コンバーチブルは3470ドル、そこにステージ1のチューンナップ料金199ドルが加われば、若者にとってはなかなか厳しかったのではないでしょうか。なお、クーペは10倍以上となる2465台が販売されています。

GMの規制解除という一瞬のドラマが生み出したビュイック・グラン・スポーツ ステージ1 コンバーチブルは、アメリカが最もパワフルで輝いていた時代を象徴する、珠玉の文化遺産。それゆえ、オークションでも16万~20万ドル(約2500万~3200万円)と、レアモデルにふさわしい落札価格が予想されています。

画像: 安価なマッスルカーでは形だけのエアスクープも、フランスポーツはしっかり吸入する機能部品となっています。

安価なマッスルカーでは形だけのエアスクープも、フランスポーツはしっかり吸入する機能部品となっています。

画像: グリルに貼られたGSエンブレムや運転席側だけのドアミラーはマッスルカー好きならずともワクワクしてくる装備。

グリルに貼られたGSエンブレムや運転席側だけのドアミラーはマッスルカー好きならずともワクワクしてくる装備。

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