文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
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V6エンジンのミッドシップレーサーから量産車へ
先ごろ、オークションに出品されるや世界中のメディアが食いついたのが、こちらのディーノ206ベルリネッタ・プロトタイプ ピニンファリーナです。その名の通り、世界にただ1台の試作品ゆえ大注目を浴びているのでしょうが、むしろV6エンジンを縦置きしたミッドシップレーサーを量産車向けに最適化した役割にこそ注目すべきかと。24歳で夭折したアルフレード・フェラーリのドラマにフォーカスされがちなディーノですが、スクーデリアのレース戦略において技術的な中核を担い、跳ね馬の未来を切り拓く重要なミドルストーンという存在にこそ価値を見出すべきではないでしょうか。
カロッツェリア・ピニンファリーナがディーノの名を冠した市販車向けプロトタイプは、ご紹介している1966年の206ベルリネッタ ピニンファリーナ以前にもう1台、1965年に206GT ピニンファリーナとして発表されています。いずれも、当時のチーフスタイリストだったアルド・ブロヴァローネによるデザインで、1965年モデルはフィアット・ディーノ・スパイダーに受け継がれ(特に丸目4灯のフェイスデザイン)、言うまでもなく1966年モデルは量産ディーノの原型となりました。

1966年のトリノ・ショーで発表された206 ベルリネッタ・プロトタイプ。唯一、エンジンを縦置きにした自走可能試作車。
ところで、市販ディーノの生産はコンパクトでありながら、大人ふたりと荷物が積める量産車が欲しかった、というフィアットの要望が無視できません。ポルシェ911追撃の一手ということで、マーケティングの意向が強く働いたのかと。市販車にミッドシップは向かないと頑ななまでに生産を拒んでいたエンツォでしたが、フィアット傘下となる経営基盤の安定に加え、愛息の名を冠したエンジンが世に出回ることで折り合いをつけたのではないでしょうか。

ピニンファリーナに在籍したアルド・ブロヴァローネによるデザインで、フロントマスクをはじめ、量産ディーノにほぼ等しいスタイル。
それでも、エンジン生産をフィアットに任せるのは忸怩たるものがあったはず。F2選手権に出場したかったフェラーリとしては、なんとしてでも「12カ月で500基のエンジン生産」をクリアせねばならず、コメンダトーレも涙をのんだとされています。

リアエンドやテールランプも量産ディーノに似つつ、ピラー形状は特徴的なフライング・バットレスにはなっていません。
レーサーのシャシーをそのまま使ったが……
さて、ミッドシップレーサーを市販車にアジャストしたと前述しましたが、これは2台のプロトタイプが使用したシャシーから読み取れます。レーサーというのはスクーデリアのミドルクラスを担った206Sで、ディーノV6をミッドに縦置きしたマシン。この206Sのシャシーは鋼管スペースペースフレームにアルミプレートをリベット結合したセミモノコック、「ティーポ585」と呼ばれていました。
1965年のプロトタイプは585をそのまま使い、結果としてホイールベース2280mmとレーシングカーと同一となりました。が、ご想像のとおりレーサーの寸法に合わせたフレームですから、乗員スペースに相当な無理が生じたとのこと。噂によると、1965年のプロトタイプをエンジンレスの不動車にしたのは「エンジンまで載せるとキャビンの造形がままならなかった」とも言われています。

量産型とは違い、縦置きゆえにエンジンフードが大きいことに注目。ピラー形状が異なるのはこの開口部のためでしょう。
そこで、1966年のトリノで発表する本命ディーノは585のバリエーションとして1基のみ作られたシャシー「ティーポ599」を使用。こちらはホイールベースが60mm延長されて2340mmとなり、縦置きエンジンを活かしつつ、キャビンスペースもどうにか確保することができたのです。ご紹介している1966年のプロトタイプを見れば、キャビンとルーフ、そこからリアエンドに流れるラインになんとなくゆとりがあるようにも思えます。縦置きエンジンのまま量産されていてもおかしくないどころか、後の288GTOやF40のベースと呼ばれていたかもしれません。

ティーポ599シャシーを使用して60mm延長されたホイールベースを活かし、縦置きのままトランクスペースも確保しています。
プロトタイプからフレーム変更、そしてエンジンも

こちらは量産ディーノのエンジンルーム。フードは小さいながら、エンジン横置きも良く見えます。
が、ご承知の通り市販ディーノはミッドシップながらもエンジンを横置きにして、よりキャビンの広さを確保。また、フレームも廉価版の楕円鉄パイプを組んだ「ティーポ607」へと変更され、206Sのレーサーの血筋は途切れることに。なにもかもフィアットのせいにすべきではないかもしれませんが、クルマ好きなら1966年のプロトタイプが量産されたシーンを想像せずにはいられないはず。

レーシングカーの206Sよりは広がったものの、キャビンはやっぱりミニマム。シートはいくらか前後スライド可能ながら、リクライニングはなし。
とはいえ、ディーノ206/246がコスト削減の末の凡庸なクルマというわけではありません。実際、フィアットの思惑通り911の追撃は成功したと判断されていますし、エンツォも売れ行きにたいそう満足したばかりか、後継モデルの208/308GT4開発に喜んでゴーサインを出したと伝えられています。
ちなみに、ティーポ599を使ったプロタイプを市販モデルへの改造を担ったのが、後のピニンファリーナをけん引していくレオナルド・フィオラバンティでした。プロヴァローネは彼の先輩格にあたり、市販ディーノは彼ら師弟コンビの合作と呼んでも差し支えないでしょう。いずれにしろ、アルフレードの遺産はフェラーリにとってはもちろん、私たちクルマ好きにとっても代えがたい宝物となったこと間違いありません。350万ドル(約5億2500万円)という予想落札価格ですが、これこそプライスレスと言いたいところではあります。

数人のコレクターが所有したとはいえ、走行距離が5万キロを超えているのは驚きです。


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