2026年9月2日、アイシンは豊頃試験場で体験試乗会を開催。自動車サプライヤーである同社が手がける技術の幅と、その成果を知る機会となった。

文:功刀和幸
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中期計画の進捗を、10の技術で示す

自動車業界でアイシンの名を知らない人は、まずいないだろう。クルマづくりへの貢献は大きく、その存在なしには成り立たない領域も少なくない。しかしその一方で、「アイシンは何を作っている会社なのか」と聞かれて、現在の体勢を正しく答えられる人は意外と限られるかもしれない。クルマのメカニズムに詳しいタイプでも、「アイシンはトランスミッションのメーカー」、という印象を持っている人は少なくないだろう。

9月2日、アイシンの豊頃試験場で開かれた体験試乗会は、同社が手がける技術の幅と、その成果を知る機会となった。参加したモータージャーナリストや編集者からは、「ここまでできるとは思わなかった」「勉強になった」といった声が聞かれた。百戦錬磨の識者たちを驚かせる、見応えのある催しだった。

画像: 体験試乗会の開催の挨拶を行う、株式会社アイシンの吉田守孝社長。

体験試乗会の開催の挨拶を行う、株式会社アイシンの吉田守孝社長。

会場で紹介されたのは、アイシンが3年前に掲げた中期計画の進捗だ。お披露目された技術は、次の10項目に及ぶ。

①ストレスフリーエントリー
車両の適所に広角カメラを設置し、そのデータを専用のアルゴリズムで解析。車両に近づいた人、乗員の降りようとする行動を予測して自動でドアの開閉を行うシステム。車両へ危害を加えようとする行動へ警告を行う機能も盛り込む。

画像: 近づく人をカメラなどのセンサーで検知、専用のアルゴリズムで行動予測し、ドアを開けるなどのアクションを自動で行う「ストレスフリーエントリーシステム」の実演。

近づく人をカメラなどのセンサーで検知、専用のアルゴリズムで行動予測し、ドアを開けるなどのアクションを自動で行う「ストレスフリーエントリーシステム」の実演。

②TEKIZAIボデー
ギガキャストのデメリットを補うように開発された技術。適材適所の発想で、ギガキャスト向けに設計されたコンポーネントの役割を区別化してベストな部材に置き換えるというもの。比較的小規模な設備で済むことや、個々の機能を際立たせられるのがメリット。

③大容量FF2モーターハイブリッドトランスミッション
大型SUVなどの大柄な車両で求められる力強さを満たしつつ、作動ロス低減による燃費向上や、発進時の力強さと高速走行時の快適さを両立するシステム。

画像: 「大容量FF2モーターハイブリッドトランスミッション」は、新型JEEPチェロキーに搭載され、燃費性能の向上と、高速巡航性能と高い牽引力を両立している。

「大容量FF2モーターハイブリッドトランスミッション」は、新型JEEPチェロキーに搭載され、燃費性能の向上と、高速巡航性能と高い牽引力を両立している。

④シリーズパラレル式ハイブリッドトランスミッション
ドグクラッチによるモーター切り離しと2速変速機構を用いて、シリーズパラレル式ハイブリッドのエネルギーロスを低減し、コンポーネントのコンパクト化による搭載性の自由度と運動性能の向上が見込める。

⑤ 機能統合電動ユニット(Xin1)
BEVパワーユニット(PU)周辺で、これまで個別に分かれていた冷媒系装置や車載充電器、DC-DCコンバーターなどの補機類をひとつのPUコンポーネントにまとめてコンパクト化を図ったシステム。

画像: 個別に分かれていた冷媒系装置や車載充電器、DC-DCコンバーターなどの補機類をひとつのPUコンポーネントにまとめてコンパクト化を図った、軽自動車向けの「機能統合電動ユニット」。

個別に分かれていた冷媒系装置や車載充電器、DC-DCコンバーターなどの補機類をひとつのPUコンポーネントにまとめてコンパクト化を図った、軽自動車向けの「機能統合電動ユニット」。

⑥ 普及版回生協調ブレーキ
BEVに必須の回生協調ブレーキシステムを作動させるための油圧の発生を、既存のギアポンプから電動シリンダー式へ置き換えることにより、低コスト化とグローバル生産への適応を図るシステム。

⑦ 次世代ブレーキシステム
EMB(電動機械式ブレーキ)、電動シリンダー式ブレーキ、統合制御ユニットを組み合わせて、高い応答性による制動能力の向上と、4輪独立制御による車両の姿勢コントロールを高いレベルで実現するシステム。

⑧AVS 人工知能によるストローク速度推定
サスペンションの実走ストロークのサンプルをインデックス化し、実際の走行のストローク初期の微細な兆しから路面状況を人工知能により推測し、最適な減衰セットをインデックスから拾い出してフラットな乗り心地を実現するシステム。

⑨アクティブリアステアリング
4WSのリヤステアリング機構の駆動部を、従来の平行配置から、遊星ギアと台形ねじを使った同軸配置に変更。コンパクト化と高い応答性、作動ストロークの拡張を実現した。

⑩ 車両運動統合制御
「走る、曲がる、止まる」の各種システムの技術を持つアイシングループの強みを活かした「車両運動統合制御」でクルマの各システムを連携させ、安全・安心、快適な走りを追求し、新たな移動の価値を創出するもの。

画像: 「車両運動統合制御」の技術の応用として、実走行からのデータを解析し、ユーザーにお薦めのドライブモードを提案するデモンストレーションも行われた。

「車両運動統合制御」の技術の応用として、実走行からのデータを解析し、ユーザーにお薦めのドライブモードを提案するデモンストレーションも行われた。

これは最新の開発技術の一部を並べたもので、既存のものや、まだ発表前のものも多く存在するが、このリストだけでも分かるように、アイシンの技術領域はトランスミッションだけにとどまらない。
乗員の乗り降りから、電動化を支えるユニット、ブレーキ、サスペンション、操舵、そして車両全体の運動制御まで、クルマのさまざまな機能に関わっている。

アイシンは「移動のすべてを快適に」という考えを掲げているという。

今回の発表項目には含まれなかったが、軽自動車のスライドドアでは極めて高いシェアを持つそうだ。こうした守備範囲の広さを知ると、アイシンをトランスミッション専門のメーカーと捉えるだけでは、実像を全くつかみきれないことが分かってくる。

画像: ミニチュアの展示で、車両の統合制御技術の役割と車両への網羅度合いを解説。

ミニチュアの展示で、車両の統合制御技術の役割と車両への網羅度合いを解説。

アイシンは、それらの技術を集結させた総合力を訴求力として、「ティア0.5」を目標に掲げている。

「ティア(Tier)」とは階層や序列を意味する言葉で、自動車メーカーを0として、サプライヤーの序列を1、2、3・・・とする中で、0.5は自動車メーカーに限りなく近いサプライヤーという意味合いとなる。

つまり、開発する個々の技術に抜かりなく精力を注ぐことで品質と商品力、提案力を引き上げ、下請けの範疇に留まらず、サプライヤー側から発信、提案をおこなえる体勢を強化していく方針だという。

電動化が広げたアイシンの役割

もちろん、製造メーカーとしての強みは今もハードウエアにある。

トランスミッションの製造をリードしてきたアイシンは、アルミダイキャストでも高い技術と生産規模を持っている。その蓄積が、今回紹介された「TEKIZAIボデー」のような新たな取り組みにも生かされ、つながっている。

画像: テスラ モデルYにて、純正のギガキャスト製フレームと「TEKIZAIボデー」との比較試乗が用意された。

テスラ モデルYにて、純正のギガキャスト製フレームと「TEKIZAIボデー」との比較試乗が用意された。

しかし、今回の発表の内容を見ると、その範囲はハードウエアに留まらず、むしろソフトウエアやシステムエンジニアリングの方面に、かなりのリソースを割き、精力的にそのポテンシャルを拡大しているようにも思える。そのことを伺ってみると、アイシンの役割が大きく変わるきっかけとなったのは、クルマの電動化だったという。

パワーユニットがモーターへと移り、従来のトランスミッションはeアクスルへ姿を変えた。駆動系の開発と供給を長年担ってきたアイシンには、電動パワーユニット全体を制御する役割を果たすことが期待された。その結果、エレクトロニクスやシステムエンジニアリングといった、ソフトウエアを含む領域の重要性も高まった。

メーカーに技術や製品を提供し続けるなかで、アイシンはハードウエアの製造を基盤に、クルマを動かすための総合的なエンジニアリングを手がける体制を築いてきたという。その技術は、乗り心地やハンドリングにも及ぶ。実際、レクサスの最新モデルであるESの走りと快適性を支える技術にも、アイシンの製品や知見が生かされている。

確かなハードが、快適なクルマを支える

ドライバーや乗員が直接触れるインターフェースや、車両を制御するソフトウエアの重要性は年々高まっている。しかし、そうした機能を支えるのは、耐久性と信頼性を備えた確かなハードウエアだ。
アイシンには、製造メーカーとしてハードの品質を重んじる姿勢が根付いている。

画像: 「シリーズパラレル式ハイブリッドトランスミッション」のカットモデル。高い精度と強度に仕上げられた部品は精密に組み合わされ、緻密な制御によってハイレベルな駆動伝達が行われる。

「シリーズパラレル式ハイブリッドトランスミッション」のカットモデル。高い精度と強度に仕上げられた部品は精密に組み合わされ、緻密な制御によってハイレベルな駆動伝達が行われる。

トランスミッションの耐久性や信頼性に対する評価も、その積み重ねの一端だろう。中古車選びで「アイシン製のトランスミッションなら長く使える」と期待し、選んで購入するケースがある、というエピソード例からも、同社の品質への信頼の高さがうかがえる。

今回の試乗体験会を通して感じたのは、アイシンが単に部品を作る会社ではなく、クルマの動きや快適さを幅広く支えているということだった。紹介された技術には、まだ開発段階のものもある。これらが今後どのように市販車へ実装されていくのか、期待が膨らむ。

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