マニュアルトランスミッション(以下、MT)とトルコン付きオートマティックトランスミッションに加えて、現在ではCVTやDCTなどの普及も進んだ。こうした変速機の進化は目まぐるしく、近年では「MTの方が低燃費」という従来の常識も車種によっては覆され、CVTがカタログ燃費で優れることもある。その事情を解説してみよう。

N-VANやカローラスポーツなど、CVT搭載車の低燃費が光る

ひと昔まえまで、自動変速機(CVTやAT含む)を搭載したモデルの燃費は良くなかった。これに対してMTはスポーティで低燃費といったイメージ。MTでの実燃費は運転者の技量によって左右されるので一概に言うことはできないものの、少なくともカタログ燃費でMTが自動変速機を凌駕していた時代が長く続いた。

ところが最近、コンパクトカーを中心に事情が徐々に変化してカタログ燃費でも自動変速機、なかでもCVT搭載モデルがMTに勝ることもある。2018年に発売されたホンダ N-VANを例に取ると、NAエンジンを搭載したFFの「G ホンダセンシング」で、6速MTが18.6km/Lであるのに対してCVTは23.8km/Lと30%近く良い数字だ。

ホンダ N-VAN以外にも、
トヨタ カローラスポーツ G(1.2T・FF) 6速MT:16.4km/L・CVT:19.6km/L
ホンダ フィット G(1.3L・FF) 5速MT:21.8km/L・CVT:24.6km/L
スズキ スイフト RS(1.2L・FF) 5速MT:22.6km/L・CVT:24.0km/L
と、いずれの車種もカタログで、CVTの燃費の良さを示している。
(※燃費の数値はすべてJC08モード)

画像: ホンダの軽自動車バン、N-VANのシフトまわり。左がCVT仕様で、右が6速MT仕様。

ホンダの軽自動車バン、N-VANのシフトまわり。左がCVT仕様で、右が6速MT仕様。

そもそもMTはギアの集合体であり、駆動効率の良さを追求して多段化すればギア数が増えて重くなり、そして体積も大きくなる。さらに、より精度の高いギア加工が必要で、当然高コストになる。そこでMTのなかでも棲み分けがなされて、商用車やコンパクトカー、廉価グレードなどで5速MTを、スポーツモデルで6速MTを、大型スポーツカーの一部で7速MTを採用している。

MTのメリットはギアの組み合わせによる高い伝達効率で、98%以上にも及ぶ。これはモータースポーツや緊急時の急加速には打ってつけだ。しかし、「人間による操作」という燃費悪化の一因が加わる。

緻密なコンピューター制御と比べると、実に大雑把だ。もしMTで低燃費を極めたければトルクバンドを外さないようにタコメーターを注視し、きめ細かくシフトチェンジを繰り返す必要がある。これでは搭乗者の快適性が損なわれるだけでなく、前方に注意を払えるかどうかも疑わしい。

画像: 発進用の1速ギアを持つ、トヨタのダイレクトシフトCVT。RAV4やヤリス、レクサス UXなどに採用される。

発進用の1速ギアを持つ、トヨタのダイレクトシフトCVT。RAV4やヤリス、レクサス UXなどに採用される。

一方のCVTはオランダで発明されたものの欧州で普及せず、日本とアメリカで発達、今や国産コンパクトカーにおける主流へと成長した。CVTは一般的に、2点のプーリーとそれを繋ぐベルト(あるいはチェーン)でエンジン出力を伝達するもので、少ない部品点数によって軽量・シンプルな構造となる。

その反面、MTと比較して伝達効率や耐久性、レスポンスで劣り、盛り上がりに欠ける運転感覚を指摘されてきた。ところが最近ではトルクコンバーターと組み合わせたり、発進用ギアを組み合わせるなどの工夫を凝らして弱点を克服してきた。

そのCVTが低燃費な理由は、シンプルな構造で使用される部品点数がすくないことと、人智を超えた緻密なギアレシオ制御にある。加えて構造的に低・中速域でのトルク伝達に無駄が少ないことも上げられ、総合すると、日本の道路環境やストップ&ゴーが続く市街地走行などでCVTのメリットを最大限に活かすことができているのだ。

一方、高速域でのエンジン出力伝達が不得手という側面もある。そのためCVTは、ホンダ N-VANをはじめとするシティコミューター、コンパクトカーで多用されている。(文:猪俣義久)

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