制限時間のうちに考えうる限りの手を尽くして壊したあの車。1991年に稼働した『ストリートファイターII』のボーナスステージ車を、米国の自動車保険The Generalが1994年式レクサスLS400で実車にした。外装はドット絵の陰影のまま、ヘッドレストには「YOU」「WIN」の文字。評価額約6万9,700ドル(約1,100万円)の懸賞の賞品だ。35年壊されつづけた車がついにリアルとなる。

文: 石川順一
▶▶▶写真はこちら|The General「ストリートファイター ボーナスステージの車」(画像4枚)

3人倒すと現れるあの車

『ストリートファイターII』を遊んだ人なら、ボーナスステージの爽快感を覚えているのではないだろうか。勝ち負けを競う対戦の合間に、ただ1台の車を壊すだけの時間が訪れる。拳と蹴りで車体を叩くのは画面のキャラクターで、こちらはレバーとボタンで操るだけなのだが、制限時間のうちに壊しきったときの気分は格別だった。

遊んだことのない人でも、車を素手で壊すゲームと聞けば、その可笑しさは伝わるだろう。そのボーナスステージの車が、なんと実物になった。しかも壊されるためではなく、走れる1台として作り直されたのだ。

画像: 3人倒すと現れるあの車

対戦格闘ブームの火付け役とボーナスステージ

『ストリートファイターII』は、カプコンが1991年3月にゲームセンター向けのアーケード版として登場させた対戦格闘ゲームだ。爆発的なヒットで一大格闘ゲームブームを起こし、その熱は家庭用ゲーム機版の登場でさらに拡大。1人用のモードには、アーケード版の当初から、3人倒すごとに車や樽、ドラム缶を壊すボーナスステージが入った。

車の登場するステージは、決められた秒数で1台を素手で壊しきるというもの。設定上は、売れ残った車を見事に壊せたら賞金を出す、1回10ドルの商売という筋書きになっている。もっともクルマ好きの目で見て面白いのは、そのモデルが1989年に登場した初代トヨタ・セルシオと目されることだ。当時発売から1年半ほどの最新の高級セダンを、売れ残りとして殴り壊すという図になっているのはなんともシュールだ。

ドット絵の陰影をまとった本物のLS400

今回の実車のベースに選ばれたのは、1994年式レクサスLS400である。LS400は初代セルシオの海外での名前で、トヨタが米国で立ち上げたばかりのレクサスの旗艦として登場し、国内でもほぼ同時に発売された。エンジンは1UZ-FE型の4.0L V8で、1994年式は初代の最後の年式にあたる。ゲームセンターに『ストII』が並んだころ、新車で売られていた世代のモデルそのものだ。

外装は、剥がせるラッピングと3Dプリントの部品で、ボディの陰影をドットのまま写し取った。ボンネットに映り込む光も、ヘッドライトの輝きも、四角い点の集まりで描かれている。写真で見ると、画面の中の車がそのままガレージに出てきたように見えて、思わず笑ってしまう。

画像: 正面から。ヘッドライトやグリルまで段差のあるドットで表され、ナンバープレートの文字もドット書体になっている

正面から。ヘッドライトやグリルまで段差のあるドットで表され、ナンバープレートの文字もドット書体になっている

室内も手が込んでいる。内装はドット柄に張り替えられ、シートは新しい革になった。前席の左右のヘッドレストには、勝利を告げる「YOU」と「WIN」が1語ずつあしらわれている。座っている本人からは見えないが、ドアを開けて乗り込むときや、窓越しに外から眺めたときに、勝ちの文字が並んで目に入る。コイン投入口の形をした小銭入れもあり、これはシートヒーターを兼ねている。

画像: 前席のヘッドレストに「YOU」と「WIN」。座面と背もたれにもドット柄が入る

前席のヘッドレストに「YOU」と「WIN」。座面と背もたれにもドット柄が入る

手を入れたのは見た目と室内まわりが中心で、エンジンと変速機、シャシー、車高、サスペンションのジオメトリー、シートベルトやエアバッグは純正のままだ。製作は、『ワイルド・スピード』シリーズの車で知られるデニス・マッカーシーと、その工房のVehicle Effectsが担った。ハリウッド映画の車を数多く手がけてきた作り手の仕事だけに、飾っておくための張りぼてではなく、運転できる1台に仕上がっている。

壊すのではなくひと息つく機会を世界に

この車を作らせたThe Generalは、ほかの保険会社では加入しにくい運転者を相手にしてきた米国の自動車保険の代理店だ。事故や支払いの遅れでつまずいた人にも次の機会を、というのが同社の考え方で、発表の題にある英語の「Break」には、壊すという意味と、ひと息ついて出直す機会という意味も込められている。何十年も叩かれてきた車を直して休ませることで、その考えを形にしたのだ。日米で2026年10月16日に封切られた映画『ストリートファイター/ザ・ムービー』に合わせた企画でもある。

車は米国在住者向けの懸賞の賞品で、評価額は約6万9,700ドル(約1,100万円。2026年10月の日本銀行の基準相場1ドル159円で換算)。残念ながら、日本からの応募はできない。あとは写真を眺めて楽しむしかないが、ヘッドレストに並ぶ「YOU」と「WIN」を見ているとボーナスステージで味わったあの爽快感がよみがえってくる。35年前、画面の前で勝ちを手にしていたのは我々プレイヤーだったが、いまその2語を掲げているのは、もう叩かれることなく走っていける、あの車だと思うと感慨深い。

※編集部註:この車壊しステージのさらに元ネタになっているのは、同じくカプコンのゲーム「ファイナルファイト」のステージ2にあるボーナスステージ。愛車を破壊された敵ギャング「マッドギア」のキャラクターが『OH! MY GOD』と膝をつきながら涙を零すシーンは今も語り草だ(そうでもない)。

The General ストリートファイター ボーナスステージ車 主な仕様

・種類:『ストリートファイターII』のボーナスステージの車を再現した実車(1台)
・ベース車:1994年式レクサスLS400
・エンジン・駆動:4.0L V型8気筒、AT、後輪駆動
・走行距離:約83,797マイル(約13万5,000km)
・製作:Dennis McCarthy、Vehicle Effects
・主な変更点:剥がせるラッピング、3Dプリントの部品、内装の張り替え、アーケード風の操作部、純正ホイールの加工、新しいタイヤ
・純正のまま残した部分:エンジン、変速機、シャシー、車高、サスペンションのジオメトリー、骨格、シートベルト、エアバッグ
・入手方法:米国在住者向けの懸賞の賞品
・評価額:69,716.25ドル(約1,108万円)
・元の作品:『ストリートファイターII』(1991年、カプコン)
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