未来を感じる乗り物に乗りたくても、売り場に並ぶのは見慣れた形ばかり。一味違ったトライクにしても選択肢が多いわけじゃない。そこで注目したいのがインドの二輪最大手、Hero MotoCorpが開発中のNEX 2だ。バイクのように傾いて曲がり、荷物を積んだまま停車中も低速でも自分で立つ電動トライクで、クールな外観デザインが目を引く一台となっている。

文: 石川順一
▶▶▶写真はこちら|Hero MotoCorp「VIDA Novus NEX 2」(画像5枚)

ショーで見た未来は、なぜ買える形で来ないのか

世界的な見本市の会場では、見たことのない形のモビリティがターンテーブルの上を回っている。人だかりができ、スマートフォンが一斉に向く。ところが説明員に聞くと、あくまでコンセプトだという答え。当然ながら、翌年に新車のカタログを開いても、あのモデルはどこにも載っていない。

乗り物に未来を求める方なら、この物足りなさを何度も味わってきたはずだ。買えるのは、いつもの形のバイクか、いつもの形のクルマ。動力が電気に変わっても、またがって足で支えるか、ハンドルを握って座るか、乗り方そのものは何も変わらない。見た目が新しいだけなら、数年で見慣れてしまう。欲しいのは、乗った瞬間に「これは知っている乗り物ではない」と分かるものだ。

バイクのように傾き、止まれば自分で立つ

その答えの候補が、インドから出てきた。Hero MotoCorpがVIDAという電動ブランドで開発中のNEX 2は、前2輪・後1輪の電動トライクだ。前2輪で、傾きながら曲がる三輪は、2本の前タイヤで路面をつかむぶん、二輪より強くブレーキが効き、曲がるときの踏ん張りにも余裕がある。バイクのように深く傾けても、足元に頼もしさが残るのが、この形の持ち味だ。日本国内では2014年登場のヤマハトリシティが担ってきたため、あまり新規性はないと思うかも知れない。

画像: 前2輪・後1輪のVIDA NEX 2。またがった目の前に荷室を持ち、低速でも停車中でも車体が自分で姿勢を保つ

前2輪・後1輪のVIDA NEX 2。またがった目の前に荷室を持ち、低速でも停車中でも車体が自分で姿勢を保つ

だがNEX 2は、前二輪の面白さに自立性を足した。低速でも、荷物を満載しても、長い時間走り続けても、車体が自分で姿勢を最適な形に保ち、止まっても足で支えなくてよくなっているのだ。ライダーは倒れる心配をせず、進む先に目を向けていればいい。バイクの傾ける楽しさと、クルマの倒れない安心感を、1台で味わえる乗り物になっている。

画像: 傾いて曲がる三輪の作りで、前2輪の奥にサスペンションがのぞく。ブレーキは前後ともディスク

傾いて曲がる三輪の作りで、前2輪の奥にサスペンションがのぞく。ブレーキは前後ともディスク

普通のバイクに足りないものも、NEX 2は埋めてくれる。自工会の2025年度の調査によれば、かつて二輪に乗り、いまは手放した人の2人に1人が「荷物をあまり積めない」を、半数近くが「自動車に比べ安全性に不安」を、二輪の弱みに挙げた。

安全性の不安には自立が答え、荷物には、燃料タンクがあるはずの場所に最初から組み込まれた荷室が答える。ふたを持ち上げると、リュックを縦に差し込めるラゲッジスペースが眼の前に広がっているのだ。後付けの箱を背負わせずとも、またいだ目の前に荷物を固定して走れる。配達の仕事から日々の用事まで、1台で受け持つ設計だ。走行風を受け止めるスクリーンもあり、長距離巡航の快適性も考えられている。

画像: 燃料タンクの位置にあるふたを持ち上げると、リュックを縦に差し込める荷室が現れる。リアボックスを足さなくても、荷物は手の届く場所に収まる

燃料タンクの位置にあるふたを持ち上げると、リュックを縦に差し込める荷室が現れる。リアボックスを足さなくても、荷物は手の届く場所に収まる

自立する乗り物は、実験車止まりが現状

走りながら自分でバランスを取る乗り物は、これまで無かったわけではない。ホンダは2017年に、ロボットのバランス制御を応用した二輪の実験車を公開し、低速や停止時に車体が自分で立つ姿を見せた。ただそれは二輪の実験車で、荷物を積んで移動する三輪の話ではなかった。

市販車の側では、トリシティが上位の300にスタンディングアシストを持つが、これはスイッチを押すと前2輪の傾きを電動のキャリパーが止め、停車中と押し歩きのときに車体を支えるもので、走りながらの支えではない。そのトリシティも、日本向けは300がすでに生産を終え、125と155も2026年のうちに生産を終える予定だ。

NEX 2が狙うのは、この2つのあいだの空白だ。実験車が見せた自立を、荷物を積む三輪で、量産メーカーが製品の構想として掲げた。

裏付けは、まだ設計の段階にとどまる。NEX 2を含むNovusの3台は2026年にRed Dotのデザインコンセプト賞を受け、形としての完成度は第三者の目を通った。自立の仕組みも、それを裏付ける実験データも、まだ表に出ていない。

とはいえ、この会社の近年の歩みを見ると、構想を認証まで持ち込む力はある。二輪と三輪を短い時間で切り替えられるSurge S32という車両を社内の孵化プログラムから生み、その貨物仕様でインドの型式認証を取った。欧州と米国の見本市では、レーダーとカメラを使う運転支援技術も公開している。

年650万台バイクを売るHeroが、電動ブランドのVIDAで試していること

Hero MotoCorpは、本社をニューデリーに構える。日本の読者には、1984年にホンダとの合弁「ヒーローホンダ」として生まれた会社と言えば通りがいいだろう。2011年に今の社名に変わった。販売台数で世界一の二輪メーカーをうたい、2025年4月からの1年間に売った台数は約650万台。工場はインドに6つ、国外ではコロンビアとバングラデシュにあり、生産能力は年に約863万台に達する。

VIDAは、この会社が2022年に始めた電動のブランドだ。第1号のスクーターV1は、インド北部ジャイプールの研究開発拠点と、ミュンヘン近郊のドイツ拠点で設計し、インド南部の工場で量産した。2025年4月からの1年間のVIDAの登録台数は約15万台で、前年の3倍近くに増えた。2026年3月の時点で、販売と整備の拠点は700を超え、自社と提携先を合わせた充電ポイントは5,900を超える。コンセプトを並べるだけの会社ではなく、電動車を売り、充電網を敷き、台数を伸ばしている最中の会社がNEX 2を出した、という順番が大事だ。製品化の可能性は十分にあるといえよう。

そしてNEX 2は、単独の珍品ではない。VIDAが「Novus」と名付けた未来の乗り物の構想は、3台で一組だ。NEX 1は、走るときはスクーターで、降りれば背負えるリュックになる。NEX 3は、屋根のある四輪の2人乗りの小さな電動車で、雨の日も街の外も走る。そのあいだに、バイクの身軽さと三輪の安定を担うNEX 2が置かれている。歩く距離、街の中、街の外と、移動の尺度ごとに1台ずつ。量産メーカーが描いた未来の全体像の中で見ると、NEX 2の立ち位置がはっきりする。

画像: 正面から見たNEX 2。幅のあるスクリーンの奥にハンドルがのぞく

正面から見たNEX 2。幅のあるスクリーンの奥にハンドルがのぞく

構想はここまで。次に待つのは量産の知らせ

NEX 2が初めて世に出たのは、ミラノで2025年11月に開かれた二輪の見本市EICMAだった。2026年にはRed Dotのコンセプト賞を受け、VIDAのサイトでは住んでいる都市と年代を登録する欄を設けて、関心のある人を集めている。段階としてはここまでだ。価格はもちろん、出力や航続距離、電池の大きさ、車両重量、積載量も公表されておらず、自立の仕組みもまだ明かされていない。

日本にはHero motocorpの正規代理店もないため、導入される可能性は低い。とはいえ仮に入るなら、免許は仕様で決まる。前2輪の接地点の間隔が46cm未満で、車体を傾けて旋回する三輪は二輪車の扱いになり、定格出力が原付の上限0.6kWを超えれば、バイクの免許とヘルメットが要る。間隔がそれ以上なら、普通免許で乗れるトライクの扱いになる。次にHero motocorpが発表するNEX 2のニュースが待ち遠しい。

Hero MotoCorp VIDA Novus NEX 2主要諸元

・形式:前2輪・後1輪の電動リバーストライク
・荷室:燃料タンクの位置に組み込み
・ブレーキ:前2輪・後輪ともディスク
・装備:スクリーン
・公開:2025年11月、EICMA 2025(ミラノ)
・受賞:Red Dot Design Concept Award 2026(Novus シリーズとして)
・開発:Hero MotoCorp VIDA

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