今では当たり前となった小型スポーツハッチの魅力を、48年も前に体現していたトヨタの名車がある。1978年に登場した2代目スターレット(KP61型)だ。軽量な車体にFR方式を組み合わせ、当時の若者たちを魅了したスポーティグレード「1300 3ドアS」。その誕生の背景から走りの実力まで、色褪せない魅力を振り返る。

▶▶▶写真8枚|「今も色褪せない!」元祖ホットハッチ「トヨタ・スターレット(KP61)」

大衆車から走りの名車へ! 若者を魅了した小さなFRハッチバック

1978(昭和53)年2月、トヨタはスターレットをフルモデルチェンジし、2代目となるKP61型を市場に投入した。それまで販売していたパブリカとパブリカ・スターレットを整理・統合し、新たなコンパクトカーとして生まれ変わらせたモデルである。

画像: 1978年に登場した2代目スターレット。パブリカとパブリカ・スターレットを統合し、新時代のコンパクトカーとして生まれ変わった。

1978年に登場した2代目スターレット。パブリカとパブリカ・スターレットを統合し、新時代のコンパクトカーとして生まれ変わった。

初代スターレットは、流麗なスタイリングのクーペやオーソドックスなセダンをラインナップしていたが、2代目では車体構成を大幅に変更。新たに採用されたのが、3ドアと5ドアの2ボックス型ハッチバックだった。

1970年代後半は、小型車に求められる役割が大きく変わりつつあった時代だ。欧州を中心に、限られたボディサイズで広い室内空間と優れた積載性を確保できるハッチバック車が人気を集め、日本市場でもその合理性が注目されていた。

画像: 無駄な装飾を抑えたシンプルなサイドビュー。実用性を重視した2ボックススタイルながら、軽快な走りを予感させるデザインだ。

無駄な装飾を抑えたシンプルなサイドビュー。実用性を重視した2ボックススタイルながら、軽快な走りを予感させるデザインだ。

こうした時代の流れに合わせて誕生したKP61型は、日常の使いやすさを追求した実用車でありながら、運転する楽しさも忘れていなかった。その象徴的な存在が、スポーティグレードとして設定された「1300S」である。

外観は、直線を基調としながらも適度に丸みを持たせた、シンプルで親しみやすいデザイン。コンパクトなボディには余計な装飾が少なく、機能性を重視したスタイリングが与えられていた。

一方、1300Sではブラック仕上げのバンパーやサイドストライプなどを採用し、標準モデルとはひと味違う精悍な雰囲気を演出。派手なエアロパーツに頼ることなく、走りへのこだわりをさりげなく主張していた。

インテリアも、基本的には実用車らしい簡潔な造形でまとめられている。しかし、ドライバーの正面には視認性のよい計器類が並び、タコメーターの存在がスポーティな気分を高めてくれた。

画像: 1300Sにはアルミ調のインパネや3本スポークステアリングを採用。ラック&ピニオン式の操舵機構も、スポーティな走りを支えていた。

1300Sにはアルミ調のインパネや3本スポークステアリングを採用。ラック&ピニオン式の操舵機構も、スポーティな走りを支えていた。

3本スポークのステアリングやアルミ調のインストルメントパネルも、1300Sならではの特徴だ。シフトレバーやペダルの配置にも無理がなく、ドライビングを楽しむための環境が整えられていた。

華美な装備や豪華な内装を追い求めるのではなく、必要なものを機能的に配置する。そんな潔さも、このスターレットが持つ魅力のひとつだった。

画像: 初期型のヘッドライトは親しみやすい丸型2灯。1980年のマイナーチェンジで角型2灯に変更され、フロントマスクの印象が大きく変わった。

初期型のヘッドライトは親しみやすい丸型2灯。1980年のマイナーチェンジで角型2灯に変更され、フロントマスクの印象が大きく変わった。

わずか710kgの軽量ボディ! FR方式が生んだ軽快な走り

1300Sのエンジンルームに収まるのは、排気量1290ccの直列4気筒OHVエンジン「4K-U型」。先代に搭載されていた1.2Lの3K系エンジンを発展させ、ストロークの延長によって排気量を拡大したユニットだ。

最高出力は72ps/5600rpm、最大トルクは10.5kgm/3600rpm。当時の数値はいずれもグロス表記であり、現在のエンジンと単純に比較することはできないものの、突出した高性能を誇るエンジンというわけではなかった。

画像: 1290ccの4K-U型直列4気筒OHVエンジン。最高出力は72psと控えめだが、710kgの軽量ボディとの組み合わせで軽快な走りを実現した。

1290ccの4K-U型直列4気筒OHVエンジン。最高出力は72psと控えめだが、710kgの軽量ボディとの組み合わせで軽快な走りを実現した。

また、OHVという動弁機構は、すでにOHC方式が普及していた当時においても保守的な構造だった。しかし、長年にわたって改良されてきたK型エンジンは信頼性に定評があり、シンプルな構造も魅力となっていた。

では、なぜ1300Sは走りを愛する若者たちから支持されたのか。

その大きな理由が、710kgという軽量な車体にある。現在のコンパクトカーと比較しても際立って軽いボディは、72psという控えめな出力を十分に生かすことができた。

アクセル操作に対する反応のよさ、軽快な加速感、そして小気味よい身のこなし。絶対的なパワーに頼らず、軽さを武器に走りの楽しさを引き出していたのである。

そして、もうひとつ見逃せないのが駆動方式だ。

当時、小型ハッチバックでは前輪駆動のFF方式が勢力を拡大しつつあったが、スターレットは従来からのFR方式を継承。エンジンをフロントに搭載し、後輪を駆動するレイアウトを採用していた。

FR方式は、前輪が主に操舵を、後輪が駆動を担当するため、アクセル操作によって車体の姿勢をコントロールする楽しさを味わいやすい。とりわけ軽量なKP61型では、その特性が素直なハンドリングにつながっていた。

画像: 実用的なハッチバックスタイルながら、当時の小型車では次第に珍しくなりつつあったFR方式を採用。写真は5ドアモデル。

実用的なハッチバックスタイルながら、当時の小型車では次第に珍しくなりつつあったFR方式を採用。写真は5ドアモデル。

足まわりにも大きな変更が加えられた。

フロントにはマクファーソンストラット式を採用。一方、リアは従来のリーフスプリングを用いたリジッド式から、コイルスプリングを組み合わせた4リンク式リジッドサスペンションへと進化した。

4本のリンクで後輪のホーシングを前後方向に支持し、ラテラルロッドによって左右方向の位置を規制する構造で、当時のトヨタ車ではカリーナなどにも採用されていた方式だ。

さらに、ステアリングにはラック&ピニオン方式を採用。トヨタ2000GTなどに採用実績はあったものの、大衆車クラスでは先進的な機構であり、操舵に対するダイレクトな応答性を実現していた。

フロントブレーキにはディスク式を採用し、制動性能にも配慮。こうしたメカニズムの積み重ねによって、1300Sは単なる実用ハッチバックとは異なる、スポーティな性格を手に入れたのである。

走りの楽しさはスポーツカー顔負け! レースやラリーでも活躍

1300Sが当時のドライバーたちを夢中にさせた理由は、エンジン性能や装備の豪華さではなく、思いどおりに操れるという感覚にあった。

スポーティグレードの「S」には、標準モデルより引き締められたサスペンションが与えられ、タイヤも一般グレードの12インチに対して13インチを採用。145SR13というサイズは現在の基準では細身だが、軽量な車体との組み合わせによって、独特の運動性能を生み出していた。

ワインディングロードでは軽快に向きを変え、アクセルやステアリングの操作に対して素直に反応する。特にFRらしい挙動が魅力で、ドライバーがクルマの動きを感じ取りながら走れる点が高く評価された。

画像: 1300Sが装着するタイヤは145SR13。現代では細身のサイズだが、軽量な車体とFRレイアウトによる素直なハンドリングが魅力だった。

1300Sが装着するタイヤは145SR13。現代では細身のサイズだが、軽量な車体とFRレイアウトによる素直なハンドリングが魅力だった。

当時のタイヤは現在ほどグリップ性能が高くなかったこともあり、限界域での挙動を比較的低い速度から体感できた。適切な環境と技量のもとであれば、後輪の滑り出しを利用した車体姿勢のコントロールも楽しめたのである。

速さだけを追求するのではなく、クルマを自分の手足のように扱う楽しさがある。そんな性格は、スポーツドライビングを学びたい若者たちにとって大きな魅力だった。

そして、KP61型スターレットの評価をさらに高めたのが、モータースポーツでの活躍である。

軽量な車体、FRレイアウト、シンプルで整備性に優れた構造は、競技車両のベースとしても好条件だった。

ナンバー付き車両によるワンメイクレースをはじめ、オーバーフェンダーやスポイラーを装着した改造レーシングカーによる競技など、さまざまな舞台でその姿を見ることができた。

また、舗装路のレースだけでなく、ジムカーナやダートトライアル、ラリーでも人気を集めた。走りの基本を学ぶための入門車として選ばれることも多く、後に競技の世界で活躍するドライバーたちにとって、技術を磨くための一台となった。

高価なスポーツカーでなくても、本格的なスポーツドライビングを楽しめる。KP61型は、そんなクルマの楽しみ方を幅広いユーザーに提供した存在だった。

画像: 大きく開くリアゲートによって荷物の積み下ろしも容易。3ドアモデルながら実用性にも優れ、日常の足としても十分に活躍した。

大きく開くリアゲートによって荷物の積み下ろしも容易。3ドアモデルながら実用性にも優れ、日常の足としても十分に活躍した。

その後、スターレットは1984年に登場した次世代モデルでFF方式へ移行し、ターボエンジンを搭載する高性能モデルも誕生することになる。

しかし、軽量な車体とFRならではの操縦性を兼ね備えたKP61型は、後のモデルとは異なる魅力を持つ存在として、今なお多くのファンから愛され続けている。

1978年の誕生から48年。時代とともにクルマの性能や技術は大きく進化したが、小さなボディを自在に操る楽しさという点では、決して色褪せることのないトヨタの名車なのである。

トヨタ スターレット1300 3ドアS(KP61型) 主要諸元

●全長×全幅×全高:3725×1525×1370mm
●ホイールベース:2300mm
●車両重量:710kg
●エンジン型式:4K-U型
●エンジン種類:水冷直列4気筒OHV
●総排気量:1290cc
●最高出力:72ps/5600rpm(グロス)
●最大トルク:10.5kgm/3600rpm(グロス)
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:FR
●タイヤサイズ:145SR13
●当時の新車価格:82万1000円

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