そんなT型フォード(レプリカじゃなくホンモノ)を、実際にボクらがハンドルを握り、運転できる機会がある。愛知県長久手市にあるトヨタ博物館で、春と秋の年2回行われる「T型フォード運転講習会」がそれだ。参加してみた。
当選倍率は5倍と狭き門
2003年から始まったこのイベント、通常は午前と午後で2名ずつ、1日合計4名×2日しか講習を受けられない。受講料は5000円だが、毎回申し込みが殺到、当選倍率は「この春は4・75倍でした(トヨタ博物館・與語さん)」という。
狭き門ではあるけど、クルマ好きならば一度はチャレンジしたいところ…ということで、長久手市に行きT型フォード運転講習会に参加した。
まずはイメージトレーニング
当選した人には、まず博物館から運転操作方法を説明するソフトが送られてくる。実際にハンドルを握る前に、自宅でイメージトレーニングをしておかないと、これは大変。3ペダルの役割が、現代のクルマとまったく違うのだ。だから博物館に向かう新幹線の中でもイメトレを繰り返していく。
午後の部、13時30分からの講習が始まる。まずは座学。T型フォードの歴史や運転までの流れをビデオでレクチャー。その後、新館の前にある駐車場P2に移動する。トヨタ博物館に収蔵されているクルマは、ほぼ動態保存。普段、整備されたクルマはここP2でテスト走行されているそうで、トヨタ博物館に来た人が、偶然レア車の走行を見られることもよくあるという
まず最初に乗り込んだのは、1915年製のセンタードアセダン。御年102歳(!)のクルマでボディ色は黒、セルモーターはなくクランクでエンジンを回す、T型フォード初期のモデルだ。まずは車両学芸グループ、山田さんが運転する横に乗り、一連の運転作法を覚えていく。
思いのほか簡単に運転できた!
続いてお待ちかねのドライビング。運転席に座る。
「ではブレーキを離して、ゆっくりとハンドレバーを前に押し込み、左足をグッと踏み込んでください」と山田さん。そのとおりに操作すると、ゆっくりとT型フォードが前に進んだ。
右手のスパークレバーを下に下ろすと、速度が徐々に乗ってくる。もちろん重ステだが、スッと曲がりあまり力は必要ない。
左足を離すとハイギアになり、さらにスピードが乗ってくる。点火タイミングを早めるため左手でレバーを調整する。
それにしても、慣れると面白い。確かに現代のクルマと操作方法が違うから戸惑うけれど、このセミ2速ATの楽な操作は、当時画期的だったそうだ。「下手にMTを乗りこなしている人よりも、AT限定免許の人の方が慣れるのは早いと思います(山田さん)」というのも、なんかわかる気がする。トルクもあり、低回転でも粘りがあるのが走りやすさに輪をかける。
1927年製クーペは、より運転しやすい
27年製クーペはモデル末期ということもあり、14年製ツーリングよりも走りやすい。スターター付きで始動も簡単だが、この頃にはすでにライバルの高級化戦略に負け、人気を失いつつあったという。
「T型フォードは丈夫なんです。累計で1500万台以上も生産され、じつは今でも消耗品を含むパーツが簡単に手に入るんですね。ですので、こういう一般の人が運転できるイベントが開催できるんです」と話してくれたのは、副館長の浜田真司さん。とはいえ100年前のクラシックカーを、一般の人が実際に運転できるのは、おそらく世界でここだけのこと。それほど貴重な体験、クルマ好きなら是非味わいたいもの。このイベントの開催は春秋の2回を予定する。トヨタ博物館のホームページをチェックしよう。
取材協力:トヨタ博物館
開館時間 9:30〜17:00 定休日:月・年末年始
愛知県長久手市横道41-100
0561-63-5155
リニモ芸大通駅から徒歩5分にあるトヨタ博物館は、本館・新館合わせて世界のクルマ約160台を展示する。国産車もトヨタ車だけでなく、エポックとなった多くの他メーカー車が展示され、懐かしさもひとしおだ。本物のクラシックカーに座って写真を撮影できる場所も。また自動車関連書籍1万1000冊に及ぶライブラリーもある。