前編は↓こちら
旧車は、いざ出発! の前に行う儀式がある
さあ出発だ! と言う前に、エンジンをかけなければならない。
こうしたキャブ車は、エンジンをかけるのもひとつの儀式である。まずイグニッションキーを回す。コココココという、燃料ポンプの音を聞きながら、少し待つ。当たり前だが、燃料をキャブに送らないとエンジンはかからない。最近のクルマのように、乗り込んだ瞬間に始動!とはいかないのだ。
キャブにガソリンを送り込んだら、アクセルには触らずにイグニッションをON。最初にアクセルを何度か踏み込む必要があるクルマもあるが、このZは何もしなくていいという。
ブルルン!と目覚めたL28エンジンは、どこか不機嫌そうで、車内に響きわたるビートは不規則そのもの。“暖まってくるまでは、そっとアクセルを踏むように”とキモに命じる。
鋭い加速力。ブレーキは甘いので注意
さあ、出発だ。ドキドキしながらクラッチを踏み込むと、意外と軽く、クラッチミートも簡単だ。そして、アイドリング+αでも、加速は力強い。まあ、軽量なボディに2.8Lのエンジンを積んでいるのだから、動力性能はそれなりに高い。
しかし、ブレーキは古いまま。スポンジーだし、なによりも効きが足りない。現在のどんなショボイ軽自動車よりも、ブレーキは甘いのだ。加速力は、最新のクルマとそれほど変わらないのに、ブレーキは何世代も前のまま。これは注意が必要だ。
また、ステアリングの手応えも、現代車と比べれば、相当にあいまいだ。パワステのアシストはないのに、タイヤは極太なので、切り込んでいけば、それなりの強い力が必要になる。いい気になって飛ばしていると、切り遅れる可能性もある。ここも注意点のひとつだろう。
トランスミッションも現代車とはひと味違う。ていねいに回転を合わせないと、なかなかきれいにギアが入らない。あわてずに、ゆっくりと確実なシフトチェンジが求められる。
なんたって、このS30Zは昭和50年、つまり1975年製で、今から42年も前のクルマなのだ。
エンジンの始動から、スタート、加速、、変速、ブレーキまで、すべてにクルマの様子を見ながら、ドライバーが調子を合わせて、ていねいに操作しなければならない。現代のクルマのように適当に扱っては、ちゃんと走ってくれない。
最初は、気を遣うし、面倒くさいなあとも思った。しかし、走らせていくうちに、それがだんだんと楽しくなってくる。
ちゃんと操作すれば颯爽としたコーナリングを見せるS30Z
コーナーの手前でしっかりとブレーキングをしながらシフトダウン。ヒール&トゥはマスト。久しぶりなんで、最初はギクシャクしたが、徐々に勘が戻ってきた。ちゃんと操作しないとS30Zはキビキビと走ってくれない。しかし、きちんと決まれば、スポーツカーらしい颯爽としたコーナリングを見せてくれる。
マシンの性能ではなく、自分が走っている! この実感が古いクルマの魅力だ。実のところ、スピードはたいして出していない。それでも非常に高い充実感を得ることができた。
しかも、こんなにもカッコ良いS30Zである。気のせいか対向車や、道行く人からの視線を集めているような…。だからこそ、余計にしゃんとした運転をしなくては! ああ、これもS30Zを走らせる魅力のひとつなのだろう。
短い時間であったが、今回のS30Zの試乗は、ずっと思い出に残るものになるに違いない。この機会を与えてくれた編集部に感謝だ。
文:鈴木ケンイチ 写真:森山俊一 取材協力:Fun2Drive