GPSなしで雨でも夜でも「道」を見失わないテクノロジー
テスト車であるアコードのルーフには、サメのヒレのようなフィン形状のGPSアンテナが、ふたつも載っていた。だから解説してくれた開発スタッフに「GPSは一切使っていません」と言われて、ついつい「ホント〜?」などと突っ込みを入れてしまったシーンもあった。
だが、実はカーナビの地図データすら使っていないというから驚いた。試乗させてもらった車両には一時停止、右左折、直進などの経路情報だけがインプットされているとのこと。あとはすべて、3つのカメラで「見た目」で情報をキャッチし、認識し、判断して「運転」してくれるのだ。
動画を見てもらえば、その不思議感を理解してもらえるだろう。実際、テストカーはとてもスムーズに一時停止し、穏やかに角を曲がり、適度な加速感とともに直線はもちろん、ゆるやかなカーブでも車線の中央をしっかりトレースしてくれる。40km/hほどの制限速度もしっかり出すし、肉眼では白い線が醜くなる雨で濡れた路面でも、ちゃんと停止線で止まる。
「AIベースの画像認識技術に、先進制御技術(モデル予測制御、適応制御、ロバスト制御m)を融合させることにより」と、少々難解なテクノロジーで構築されたホンダ独自の自動運転は、端的に言えばとても頼もしい「スマートドライバー」のドライビングを味わわせてくれた。
さらに言えば、コストもしっかり抑えられる。もちろん市販時にはGPS情報やレーダー、ライダーを使ったほかのセンシングも組み合わされるそうだ。それでも、カメラ画像のみで極限まで認知力、認識力を引き上げることで、ほかのセンサーに関するコストを大幅に抑制できるのだとか。
人とクルマの「読めない流れ」でも、AI学習でリスクを回避
このホンダの画像認識技術にはもうひとつ、人通りの多い繁華街などでも「頼りになる」こだわりがある。それが、挙動が読めない歩行者や自転車、ふいの飛び出しなども含めた「ヒヤリハット」を感じる危険なシーンを予測し、適切に回避するテクノロジーだ。
ユニークなポイントのひとつが、ディープラーニングなどによる予測精度の向上に加えて、障害物の動きをリアルタイムでチェックし、動きの変化を予測することで最適軌道を探し出す独自のアルゴリズムを使っていること。あらゆるリスクを予測し回避する従来型のアルゴリズムのように、膨大な量のデータを処理する負荷から開放されるという。
またホンダは、歩行者などの行動認識に関してもユニークなトライを続けている。人の顔の向きや進んでいる方向などのベクトル情報を取り込むことで、将来の行動や位置を予測しながら変化する位置関係をリアルタイムで把握できる。結果的に、スムーズに危険を回避するための行動を、連続的に修正し最適化することが可能になる。
「周囲のシーンを正しく理解し、同時に無駄のないリスク予測をおこたらないようにすることが大切です」と開発スタッフ。よく考えてみると、そうした要素はすべて普通に安全運転をするためのコツにほかならない。自動運転はともすれば無機質な印象だけれど、実は開発陣とシステムがガッチリタッグを組んで切磋琢磨していくプロセスなのかも。そんな妙な親近感を覚えた、ホンダの最新技術体験だった。