マクラーレン720Sはリアのスライド量を可変制御できるシステムを搭載する
フロントで10%、リアで20%ほどバネレートを高めたサスペンションは、なるほど650Sより、やや硬めな印象をもたらすが、前述した改良型ダンパー制御のおかげで不快な印象はいっさいない。むしろ、4本のダンパーを連携して作動させるマクラーレン独自の「プロアクティブ シャシコントロール(PCC/720Sはその進化版でPCC IIと呼ばれる)」の恩恵でボディがフラットに保たれ、実に疲れにくい。それでいながら、スプリングレートが高くなったため、路面からのインフォメーションが、よりストレートに伝わり、タイヤのグリップ状態が克明に把握できるようになったのだ。
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その恩恵をフルに享受できるのがサーキット走行である。今回はローマ郊外のヴァレルンガでテストする機会があったが、初めてのコースだったにもかかわらず、2周目にはもうリアタイヤが滑り出すタイミングが掴めるようになった。
その様子を助手席で眺めていたインストラクターが、冒頭で述べたVDCを立ち上げてくれた。そして、すぐにその意味が理解できた。これはクルマを勝手にドリフトさせるギミックではなく、スタビリティコントロール(SC)が許容するリアのスライド量を可変制御できるシステムであることが理解できた。
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跳ね上げ式ディへドラルドアの開口部がルーフまで拡大され、乗降性が大幅に向上している。
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カーボンセラミック製ブレーキディスク径はフロントに390mm、リアに380mmを装着。200→0km/hの停止時間は4.6秒。
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油圧ダンパーを相互制御する「プロアクティブシャシコントロール II」に改良され、快適性が向上。レザーシートを採用。
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ドアを開けると折り畳み式メーターユニットが起き上がる。センターコンソールには8インチ縦型ディスプレイを配置する。
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720Sはマクラーレンのスーパーシリーズの第二世代だ
最近は一定の範囲までオーバーステアを許すSCもあるが、その場合でもある程度はシステムが介入している。しかし、マクラーレンのVDCは設定値に到達するまで完全に制御が切れているようだ。それだけにマシンコントロールはよりシビアになり、ドライビングスキルの向上に役立つシステムといえる。
エンジンや足まわりはドライバーとの一体感がさらに強まり、限界域のコーナリングテクニックを磨く電子デバイスまで用意した720S。実はミッドシップながら斜め後方が視認できるなど、改良点は数多くあるのだが、紙幅が尽きた。最後に一点だけ申し上げておきたいのは、720Sもマクラーレンの伝統に従い、あくまでもピュアなドライビングの喜びを追求するために生まれたマシンである、ということだ。
マクラーレン720S 主要諸元(EU準拠)
●サイズ:全長4543×全幅1930×全高1196mm ●ホイールベース:2670mm ●車両重量:1419kg ●エンジン:V型8気筒 DOHC ツインターボ・3994cc ●最高出力:537kW(720ps)/7500rpm ●最大トルク:770Nm/5500rpm ●駆動方式:MR ●トランスミッション:7速DCT