レクサスの旗艦「LS」の新型がいよいよ日本の道を走り始めた。長らく搭載されていたV8エンジンを止めて、新たに3.5LのV6ハイブリッドと新開発3.5LV6ツインターボの2本立てとなった新型LSの乗り味を2回に分けて報告しよう。(文:阪本 透/ホリデーオート編集部 写真:レクサス)
画像: 勢揃いした新型レクサス500h。低く構えたフォルムは若々しく、それでいて威厳がある。今回より、ロングホイールベースに一本化されたのもトピックだ。

勢揃いした新型レクサス500h。低く構えたフォルムは若々しく、それでいて威厳がある。今回より、ロングホイールベースに一本化されたのもトピックだ。

「これがレクサス」。そう言える領域に到達した

正直に白状してしまえば、そして誤解を恐れずに言えば、かねて不思議に思っていたことがある。果たして、メルセデス・ベンツやBMWに乗っている人たちが、レクサスを購入の俎上にのせるのだろうかと。どちらが良いか…こう言っては何だが、それはメディアが提供するある種の娯楽であって、蘊蓄である。本当に購入を検討する人々というのは、M.ベンツにしろBMWにしろ、指名買いなのではないかと。どれも工業製品としても一級品だが、その背景にあるさまざまな要素やストーリーがブランドのファンを作り、それぞれのロイヤリティを醸成する。ハードウエアの優劣を競っても、それはユーザーの琴線にはほとんど触れないのではないか。逆説的に言えば、ハードウエアは目や舌の肥えたユーザーを満足させて当たり前でなければならないし、実際にいわゆるジャーマンスリー(メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ)はそのようにして今日のポジションを築いてきた。

さて、我がレクサスである。2005年に国内展開を開始したレクサスにとって、その後の10余年はまさにそうした指名買いとの戦いであったはずだ。ジャーマンスリーに比肩する存在としての認知、そしてその背後にある世界観。さらに言えば、このマーケットはガチガチの保守層なのだ。ゆえに、レクサスはジャーマンスリーの背中を追い、世界観の構築に邁進し、そしてハードウエアを磨き上げてきた。

そんな呪縛からようやく吹っ切れてきたのではないかと感じたのが、2017年の春に国内発表されたラグジャリークーペのLCである。この大型クーペは、もはやなにものにも似ていない。価格などを見れば何台か競合しそうなクルマはあるが、その後リアルワールドで他ブランド車と鞘当てをしているという話は聞いたことがない。あくまでレクサスの考える大型のクーペであり、それに共感する人たちがレクサスというブランドに目を向け始めたと思う。

画像: 高速道路ではLS500hのエグゼクティブを試した。その乗り味は先に発売されたラグジュアリークーペLCとよく似ている。

高速道路ではLS500hのエグゼクティブを試した。その乗り味は先に発売されたラグジュアリークーペLCとよく似ている。

新型LSとLCの味わいは実によく似ている

前置きが長くなってしまった。実は新型LSのファーストインプレッションは、このLCに乗った時に感じたそれと酷似していたのである。

まずは見た目の印象から。カタログスペックから想像するほどには大きく見えない。今回はロングホイールベースモデルに一本化されたが、新世代のGA-Lプラットフォームが生み出すロングノーズと低く構えたスタンスは、その処理にLCに共通する手法が多用されている。好き嫌いの分かれそうな個性的なフォルムだが、これでいい。嫌なら、ほかにも選択肢はある。

ドアを開けると目に飛び込んでくる世界もまた、レクサス独特のものだ。試乗したのはハイブリッドの最上級グレード「エグゼクティブ」だったが、粋人の茶室にでも案内されたかのような個性あふれるインテリアには圧倒された。ドアトリムには職人が一枚の布地を折り重ねて作る「ハンドプリーツ」が、そしてオーナメントには切り子ガラスがあしらわれている。シートに収まり、外板に軽量なアルミを使ったドアを閉めると(ドアそのものは軽いのになぜか閉まる音は重厚感にあふれる)、訪れるのは外界と遮断された静寂。パッセンジャーがいれば、その息づかいさえ聞こえてくるだろう。静的な剛性感は申しぶんない。

画像: メーカーオプションの「ハンドプリーツ」。これに切り子ガラスのオーナメントを組み合わせたインテリアはジャーマンスリーとは明確な一線を画す。

メーカーオプションの「ハンドプリーツ」。これに切り子ガラスのオーナメントを組み合わせたインテリアはジャーマンスリーとは明確な一線を画す。

シートベルトを締めて正面を向けば、そこには今までのLSとはちょっと違う世界が広がっていた。一口に言えば、タイトになった。これまた手の込んだインストパネルは横基調で、本来ならば開放感が勝るはずなのだが、コンパクトなメーターフードやその周囲に最小限にスイッチ類がまとめられているせいか、心地良い包まれ感がある。けっして狭苦しいわけではない。平たく言えば、クルマとの一体感がある。だから実際の寸法より、クルマが小さく感じられた。紛れもなくドライバーズカーになった。

もうV8はいらない!?

試乗の行程は、東京・品川のホテルを起点に、首都高速を通って東名高速を走り、伊豆津縦貫自動車道と一般道を走って伊豆サイクルスポーツセンター(CSC)に至るもの。メインは高速道路だ。ここで動力性能・静粛性・ハンドリングなどを試す。

加速性能はさすがである。V6の3.5ℓアトキンソンサイクルエンジンに10段変速制御を加えたマルチステージハイブリッドは、まずそのレスポンスの良さに驚かされる。今回、従来型に搭載されていた4.6ℓV8エンジンがドロップしたことが物議を醸しているらしいが、もはやそんな時代でないことはこのパワートレーンを一度でも味わってしまえば実感できるはずだ。たとえば、一定速で流しているときは、まるで時が止まっているかのような錯覚に襲われる。とくにエンジンを停止したまま走行できるエンジン間欠速度域がFR車で140km/hまで引き上げられた(今までは70km/h以下)ことにより、アクセルワークでさらに静かな走行を味わうことができる。その一方で、ひとたびアクセルを踏み込めば、怒濤の加速Gに襲われる。従来は120km/h以上でしかエンジン最高出力を使えなかったが、マルチステージハイブリッドシステムによる有段ギアの採用で、60km/hからそれが可能になった。どうりで速いわけだ。

画像: かったるいハイブリッドは過去のものになった。マルチステージハイブリッドは間違いなく良い!

かったるいハイブリッドは過去のものになった。マルチステージハイブリッドは間違いなく良い!

新プラットフォーム/シャシはかなりいい。こんな高価なクルマ(エグゼクティブは1640万円!)で走りが悪いわけない、と言われたらそれまでなのだが、その乗り味は先に出たLCにかなり近いと感じた。直進では圧倒的な安心感を、ツイスティなコースではステアリングを通して感じる手応えと接地感、そして回頭していくプロセスがLCの味わいに実によく似ている。もちろん、ホイールベースの違いで、全体的にはLSのほうがマイルドだし、重厚感がある。しかし、軽快感という便利な言葉の裏に隠されているような軽薄な乗り味ではない。クルマを操っている実感は、過去のLSとはまったく違うと感じた。今までのLSと言えば、後席でふんぞり返っているのがベストだと思っていたが、そんな人でも思わずハンドルを握りたくなるほど愉しいクルマに仕上げられている。これが新世代レクサスの乗り味か…。

(以下、後編に続く。注目の新開発V6ツインターボエンジン搭載車のインプレッションや「Lexus Safty System +A」の体験記も中心にお届けします)

■レクサスLS500h“EXECUTIVE”(FR車)主要諸元
●全長5235×全幅1900×全高1450㎜
●ホイールベース:3125㎜
●最小回転半径:5.6m
●車重:2320kg
●乗車定員:5名
●エンジン型式:8GR-FXS
●エンジン最高出力:220kW(299ps)/6600rpm
●エンジン最大トルク:356Nm(36.3kgm)/5100rpm
●モーター最高出力:130kW(180ps)
●モーター最大トルク:300Nm(30.6kgm)
●サスペンション形式:前後マルチリンク
●ブレーキ形式:前・対向4ポッドキャリパー付Vディスク 後・対向2ポッドキャリパー付Vディスク
●車両本体価格:1640万円

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