猛牛を完全に支配する、えも言われぬ快感
いま、スーパーカーは第二次成熟期のまっただ中にある。1990年代初頭に始まった第一次成熟期を生み出したのは、我らが初代ホンダNSXだ。それまでのスーパーカーとは次元の異なるドライバビリティ、快適性、そして実用性を備えたNSXはスポーツカーのあり方を一変させ女性にも気軽に運転できる操作性をもたらし、スーパーカーにAT普及を促した。
ここで言う第二次成熟期が顕著になったのは2010年代に入ってから。日常領域ではスポーツセダンとほとんど変わらないドライバビリティを得たスーパースポーツカーだったが、限界領域のコーナリング性能を引き出せるのはレーシングドライバーなどひとにぎりの人たちだけだった。それがスタビリティコントロールの誕生に伴い、ある程度のスキルさえあれば、タイヤが滑り出す直前のコーナリングを比較的安全に引き出せるようになったのである。
これに気づいたスーパースポーツカーメーカーは、極限状態におけるコントロールの幅を広げ、ドライバーに様々なシグナルを送るフィードバック系の充実に力を入れ始めた。それがドリフト領域におけるスタビリティコントロールの制御能力向上であり、接地性とフィードバック性に優れたサスペンションの開発であり、スタビリティを改善させるエアロダイナミクスの進化であり、限界領域のスタビリティ向上に大きな役割を果たす4輪駆動の活用であった。
気軽で元気でエモーショナルに、スーパーカーの世界が広がる
ランボルギーニ ウラカンのハイパフォーマンスモデル“ペルフォルマンテ”は、こうした技術を漏れなく盛り込んだ、第二次成熟期を代表するスーパーカーだ。
ここでもっとも注目すべきは、まったく新しい可変エアロデバイスの“ALA”である。
空力特性を変化させるデバイスといえば、角度や形状を変化させるものが一般的だが、ペルフォルマンテは「空気で空気の流れを制御する」ことにより、これまでよりも圧倒的に軽量コンパクトで、瞬時に空力特性を可変できる能力を手に入れた。
ウイングがダウンフォースを発生する原理は、ウイング上面と下面の気圧差で下向きの力を発生させ、これによってボディを路面に押しつけていると説明できる。では、ウイングの気圧差をいかにして生み出すかといえば、空気の流速の差である。
同じ量の空気が移動するとき、流速が速ければ速いほど気圧は下がり、真空に近づく。実は、ウイングの断面形状はこれを目的として設計されているのだが、ALAはウイング下面の空気量を補う特別な流入経路を設定。ここに空気を流すか流さないかを電子制御することで、ウイングの角度を変えることなく、ダウンフォースと空気抵抗を自在に調整できるようにしたのだ。
残念ながら、空力特性の変化自体を認識することは私にはできないが、ペルフォルマンテに乗ると、信じられないほどの高速域を驚くほど安心して走行できることは国際試乗会が行われたイモラ サーキットでも確認しているし、今回の試乗でも体感できた。
とにかく、まったく恐怖感を覚えることなく高速コーナーをクリアできるのだが、スピードメーターを見て初めてそのパフォーマンスの高さに驚くといった具合なのだ。しかも、クルマに乗らされている印象とは完全に無縁。むしろ、ハンドルから豊潤なフィードバックが得られるため、クルマとの強い一体感を味わいながら、ドライバーが積極的にコントロールしている充実感を堪能できるのである。ランボルギーニのようなスーパーカーを自分が完全に支配下に置いているという喜びは、クルマ好きなら誰もが一度は体験してみたい感覚ではないか。
8500rpmまで回る超高回転型V10自然吸気エンジンは、5.2Lの大排気量を生かして低回転域でも溢れるようなトルクを生み出してくれるが、さすがにそれでは官能性は薄い。そこで試しに8000rpmオーバーまで回してみたところ、ギャイーンという心を震わせるようなサウンドとともにレブカウンターが急上昇し、全身にアドレナリンが漲るような感覚を味わえた。エモーショナルという意味では、これに優るエンジンはまずないだろう。
これだけ完成度の高いモデルが誕生したことで、ライバルたちはどんな「次なる一手」を繰り出してくるのか。スーパーカーの世界がいよいよ賑やかになってきた。(文:大谷達也)
ランボルギーニ ウラカン ペルフォルマンテ 主要諸元
●全長×全幅×全高=4506×1924×1165mm
●ホイールベース=2620mm
●乾燥重量=1382kg
●エンジン=V10DOHC
●排気量=5204cc
●最高出力=640ps/8000rpm
●最大トルク=600Nm/6500rpm
●トランスミッション=7速DCT
●駆動方式=4WD
●最高速=325km/h以上
●0→100km/h加速=2.9秒
●車両価格=3416万9904円