コンプレックスから生まれた最強の戦車
第二次世界大戦(WW2)後の最強戦車と称されるのが、アメリカ軍のM1エイブラムスだ。WW2後の冷戦期、朝鮮戦争やベトナム戦争に本格的な戦車戦はなかった。中東紛争でも、当事国に武器供与はあったが、逆に東西双方の兵器が混在し、アメリカのM46/47〜60パットンや、旧ソ連のT-54/55〜62、そして独・仏・英の主力戦車も大戦車戦を経験していなかった。
こうした中、本格戦車戦となったのが、1991年に勃発した湾岸戦争で、1981年に採用された主力戦車M1が初めて、ソ連製のT-62や72と真っ向から対峙した。それまで西側諸国の戦車は常に、ソ連のT-54/55・62・72を「脅威」として追従してきた経緯があった。
M1は半ば伝説化されていたT-62や72を、圧倒的な火力と装甲で一方的に撃破し、地上戦勝利の立役者となった。その後のイラク戦争やアフガニスタン紛争でも、イスラム側のT-55〜72に対しても一方的な戦いをし、WW2後の実戦における最強戦車として評価された。
WW2から米陸軍は、M4中戦車、M26重戦車とも二流品であることを承知していた。戦後第1世代戦車のM46〜48パットン シリーズが、ソ連のT54/55と何とか互角に戦えれば良いという状況だった。これは、米軍にとって本土が戦場と化すことはないという前提があり、戦車の出番は主に同盟国の支援に過ぎなかったためだ。
第2世代のM60パットンが旧式化する頃、西ドイツと共同開発を行っていた第3世代戦車/MBT-70計画が頓挫。ここから生まれたのが、M1エイブラムス(1981年採用)と、ドイツのレオパルド2(1979年配備。M1と並び現代最強とされる)だった。
ガスタービンエンジンを採用したM1エイブラムス
火力と装甲は割愛するが、M1の最大の特徴は機関にガスタービンエンジンを採用したことだ。ガスタービンはジェットエンジンの派生形。航空機ではお馴染みの機関で、吸気タービンの前にシャフトを出しプロペラを装着すればターボプロップ。排気タービンの後方にシャフトを出せば、ターボシャフトエンジンとなる。
吸気-圧縮-燃焼-排気を行程ではなくブロックで行う構造があり、次の特長がある。
■小型軽量・高出力。
■高品質の燃料を必要としない。ジェット燃料・軽油・ガソリンとも使用可能。
■振動・低周波騒音が少ない。
■過給機・冷却補器類が不要。
■オーバーホール期間が長い。
このように航空機や船舶に最適な理由で、前回も紹介したレシプロエンジンに代わったわけだ。また、米軍は伝統的に武器装備や燃料の共有化と互換性を重視しており、M60の前期型まで戦車もガソリンエンジンだった。航空機や艦船でガスタービンエンジンが一般化すれば、同じ燃料が戦車にも供給できる理屈になる。
しかし、常時タービンを回す(駐車待機時は、補助の小型ガスタービンエンジンを作動して車内電力を確保している)ため、毎時約45Lもの燃料を消費し、小型軽量化されてもバカ食いする燃費のため、第3世代ディーゼル戦車の2倍もある巨大な燃料タンクで相殺されてしまった。
ガスタービンは、加減速のレスポンスこそレシプロエンジンに劣るが、一度パワーに乗ると爆発的で、非常時は約2万2500rpmのタービン軸から3500rpmを出力し、100km/h走行も可能とされている。もちろん駆動系がもてばの話だ。
バージョンアップの度に追加装備が増え、現在は64トン弱もあるが、これはドイツのレオパルド2も同じ。むしろ両者とも40年間更新しながら配備されていることが、最強伝説といえる。(文 & Photo CG:MazKen)
■ハネウェル AGT1500 パワーパック概要
●型式:ターボシャフトガスタービン
●最大出力:1500hp/3000rpm
●変速機:アリソン製 4速AT
●最大速度:約67km/h(整地)
●燃料:JP-8 ジェット燃料、軽油、ガソリン
●参考燃費:約425m/L(整地)
●燃料タンク容量:約1892.7L(500米ガロン)