最速をめざす機体のカスタマイズはチームとパイロットの腕の見せどころ
「空のF1」とも呼ばれ、日本人パイロットの室屋義秀選手が2017年には初の年間総合優勝を勝ち取るなど、日本でも人気を集めた3次元のモータースポーツ、レッドブル・エアレース。諸般の事情で2019シーズンで惜しまれながら終了したが、その機体やエンジンはモンスターと呼ばれるにふさわしいものだった。3回連続でエアレースについて紹介する最終回は、再び機体についてだ。
エアレースを初めて見る人には、どれも同じ飛行機に見えるだろう。実際ここ3年、レース機の機体はジブコ・アエロノーティクス製 エッジ540-V2とV3、そしてMXエアクラフト製 MXS-Rの計3機種だった。また、2018年から下位クラスにあたるチャレンジャークラスは、規定によりすべて540-V2となった。しかし、エンジン/プロペラ/出力/最低重量などが厳格に規定される中で、機体の外観である翼や胴体、エンジンカウルや操縦席を覆うキャノピー(風防)といったデザインは自由なので、ここに各チームとパイロットが独自の工夫を凝らしている。
まずは3機種の違いと、簡単な見分け方から見てみよう
MXエアクラフト製 MXS-R
2018年に1チームだけが採用した、最も設計が新しいカーボンモノコック構造の機体だ。モノコックはフレームと外殻を一体化して剛性を持たせる構造で、フレームにスチールを使用している。外板構造と違い、カーボン外殻が構造体なので、エンジンカウルとキャノピーを除くと、継目がほとんどない滑らかな胴体であることがわかる。また、翼が機体下面から伸びる低翼機なことも、大きな特徴だ。
ジブコ・アエロノーティクス製 エッジ540-V2(従来型)
主流のエッジ540は中翼機だが、V2とV3では外観がかなり違う。先代にあたるV2は、操縦席後ろから尾翼パートにかけての胴体後半部の下3分の2が布張りのためスチールパイプフレームの筋が浮き出ている。また正面から見ると、プロペラシャフト左右の冷却空気導入口が横長楕円形状だ。
ジブコ・アエロノーティクス製 エッジ540-V3(改良型)
一方、改良型のV3(室屋機など)は丸目型の冷却空気導入口で、機首の「ひょうきん顔」が大きな特徴。胴体のスチールパイプフレームを全面カーボン外板で覆っているので、側面がV2より滑らかだ。
エッジ540はさらに、エンジンカウルやキャノピー、主翼端のウイングレットの大きさ/曲げ形状が、パイロットやメカニックの理論を反映している。
室屋機について、ライバルチームのメカニックは「540は元がエアロバティック機だが、純レース機のMXS-R並みに外板に強い剛性を持たせた、次世代的機体」だと語る。外観も、他機のようなキャノピーから尾翼までつながるレイザーバック(ファストバック)スタイルではなく、2015年の千葉戦デビューから唯一バブルタイプキャノピーを用いている。キャノピーの張り出しは、室屋選手のヘルメット分という極小さで、軽量化と空力向上に優れるそうだ。
各機独自の大きさと形状をしている主翼両端のウイングレットは、翼端の乱気流を防止し、旋回時の抵抗を抑える効果がある。一時、<型ウイングチップを翼端に装着したり、下向きに曲げられた機も見られたが、2018年は全機上方向に曲げたデザインに落ち着いた。
2018年千葉戦の室屋選手は、初戦の垂直ターンで12Gを超えて失格した。話題になったのが、本戦当日の垂直尾翼の交換だった。無論、エアレース機を操縦したことのない素人による憶測ばかりだが、室屋選手自身がシーズン前に地元千葉で新しい空力パーツを試すと宣言していた。前日予選後の会見や本戦後の会見でも、それがベストと変わらずに語った。
「速度は出るが神経質な挙動を嫌い、今日、従来型の尾翼に替えたことが敗因だと思わない」というコメントは、究極の超高速バトルの操縦士だからこそ言える本音だと確信する。室屋選手の華麗なフライトを再び見たいと思っているファンは少なくない。日本でも人気の高かったイベントだけに、その復活に期待したいものだ。(文 & Photo CG:MazKen)
※撮影機材:オリンパス OM-D E-M1 II、M.ZUIKO DIGITAL ED IS PRO