ソフトトップルーフでリアルスポーツカーに生まれ変わった
リトラクタブルハードトップの採用により、オープン時もクローズ時も美しいスタイリングを実現した先代Z4だが、その一方でパッケージングの制約、かさむ車重により、走りの面で不満を感じていたことも事実だ。
BMWもそれはよくわかっていたらしく、新型はソフトトップに回帰し、またトヨタと共同で開発を進めることによって、リアルスポーツカーとして生まれ変わった。
新開発のシャシは前後50:50の重量配分と、ショートホイールベース&ワイドトレッド化を追求している。ボディは全長を従来より85mm長い4324mmとする一方、ホイールベースは26mm短縮して2470mmに。全幅は74mmもワイドな1864mmとしている。サスペンションは前ダブルジョイントストラット、後5リンク。軽量化のためアルミ製パーツが多用されている。
エンジンはsDrive20i/sDrive30iに2L直列4気筒ターボを、そして最高峰のM40iに3L直列6気筒ターボを積む。
今回、ハンドルを握ったのは最高出力340ps、最大トルク500Nmを誇るM40i。車名が示すとおりシャシはBMW M社が手がけたもので、10mmローダウンのサスペンションと可変ダンピングシステム、Mスポーツディファレンシャルと呼ばれる電子制御式LSD、専用ブレーキなどを備える。
優れた実用性と走行性能、2シーターとして文句なし
乗り込んでまず気づくのは、シート背後にカバンなどの小物を収納できるスペースがあること。先代ではリトラクタブルハードトップの採用で犠牲になっていた。しかも荷室はルーフの状態を問わず281Lのラゲッジルーム容量を確保し、2シーターとしては文句なしの実用性だ。
走り出すと、すぐにそのポテンシャルの高さが伝わってきた。ボディはもちろんハンドルまわりの剛性も非常に高く、操舵感がとてもダイレクト。小指一本分くらいの微小な舵角から正確なレスポンスでクルマの向きが変わることに気分が弾む。
可変ダンピング付きとはいえホイールはオプションの19インチ。サスペンションは硬めだが、乗り心地は何とか許せる範囲に収まっている。剛性感はルーフを開けても閉めても大差ないので、積極的にオープンにしたくなる。風の巻き込みはオプションのドラフトストップで最小限に抑えられる。
オープンにすると心地よいエンジンサウンドが強調され、垂涎のフィーリングを堪能させてくれる。トルクは低回転域からフラットだが、緻密なその吹け上がり、心地よいサウンドに惹かれて、つい右足に力が入ってしまう。8速ATは、いわゆるトルコンATとしては文句なしに速い変速を楽しませてくれるが、切れ味ではDCTにまだ及ばないというのが率直な印象である。
このシャシに、このパワートレーンである。ワインディングロードが最高の舞台であることは言うまでもない。舵角が一発で決まり、その後は吸い込まれるように旋回姿勢に入っていくコーナリングは軽快そのもの。ギア比可変ステアリングも、後輪操舵も、優れた素性が備わっていれば、まったく必要ないと改めて実感できる。
唯一、気になるのは立ち上がりでのリアの挙動がやや神経質なことだ。一気に横方向に発散しようとして、DSCがスポーツモードであっても素早いカウンターステアが必要になる。もう少し流れ出しが掴みやすく、かつクルマを前に進めながら滑ってくれれば、コントロールをいっそう楽しめると思うが、おそらくBMWは敏捷性を最優先にしたのだろう。
2シーターオープンカーとして、スポーツカーとして、新型Z4は非常に魅力的な1台に仕上がっていた。とくに今回試乗したM40iは、そこに珠玉の直列6気筒ユニットが載るのだ。ライバル達との勢力図を一変させる可能性すら秘めている、と言っても決して過言ではない。(文:島下泰久)
BMW Z4 M40i 主要諸元
●全長×全幅×全高=4324×1864×1304mm
●ホイールベース=2470mm
●車両重量=1535kg
●エンジン=直6DOHCターボ
●排気量=2998cc
●最高出力=340ps/5000-6500rpm
●最大トルク=500Nm/1600-4500rpm
●トランスミッション=8速AT
●駆動方式=FR
●0→100km/h加速=4.5秒
●最高速=250km/h(リミッター)