販売好調な新型クラウン
新型クラウンが売れている。
発売後の昨年7月からは、売れ筋コンパクトカーやSUV、ミニバンが名を揃える乗用車ブランド別ランキングでもトップ10に顔を出し、2018年1-12月累計では5万台を突破(5万0324台)。前年比で173%を記録するなど、その勢いはこのところの歴代クラウンシリーズのなかではヒット作と呼んでいい。
今回、撮影でお世話になったゴルフ場の駐車場には、じつは一般客の新型クラウンが3台も(!)駐まっていた。それもすべてRSグレード。しかもすべてボディカラーが今回の試乗車と同じ「ホワイトパールメタリックシャイン」。これだけ見ても、とくにゴルファー世代の新型クラウン人気のほどが伺える。
先代クラウンとどう変わったのか?
まずは概要から紹介していこう。
パワートレーンは2.5Lハイブリッド/3.5Lハイブリッド、2Lターボの3種類。クラウンらしく縦置きエンジン&FRレイアウトは踏襲している。このうち、いちばん売れ筋となる2.5Lハイブリッドのみフルタイム4WD車が用意される。
グレード展開は、先代クラウンとは大きく変わった。従来の「ロイヤル」「アスリート」「マジェスタ」が廃止され、車種としては1モデルの展開。グレードは大きく分けると「標準仕様」(B/S/G/GーExecutive)と、スポーティ仕様の「RS」(RS/RSーB/RS Advance)の2つに整理されている。ちなみにB/RS-Bは2.0Lターボ専用、G-Executiveは2.5L/3.5Lハイブリッド専用のグレードとなる。
今回試乗したのは、クラウン2.0Lターボ「RS Advance(RSアドバンス)」(559万4400円)。ちなみにRSグレードは、専用18インチアルミホイールやリアスポイラー、左右4本出しのテールパイプなどなど、RS専用のエクステリアをまとい、見た目もスポーティだ。RSグレードは、さらにAVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンション)と呼ばれる電子制御サスペンションを標準で採用している。
トヨタの新しいプラットフォームTNGAに基づくFR用「GA-L」のナロー版を採用した新型クラウンは、低重心のパッケージとなっている。またホイールベースは、従来に比べ70mm延長され2920mmになったことで、広い室内空間を確保しながら安定感のあるフォルムも手に入れている。
全長は、先代クラウンアスリート比で15mm延長され4910mmと、先日日本でも発売されたレクサスESの4975mmに近い大きさになっている。ただしFRレイアウトを採用するおかげで、最小回転半径はRSグレードで5.5m(標準仕様はなんと5.3m。ちなみにレクサスESは5.8~5.9m)と、小回りが利き運転がしやすいのも特徴だ。
全幅は1800mmと、従来のクラウンと変わっていない。これは日本の道を知り尽くし、日本のユーザーの声を聞いた結果だろう。走りやスタイリングの美しさを考えると、全幅はより広いほうが良い。現にヨーロッパ車を中心に、ニューモデルは近年、また車幅が広がる傾向にあるのだが、クラウンはあくまで「日本での使い勝手」を優先している。クルマのグローバル化が進んでいるいま、日本市場だけをここまで考えるクルマづくりは、本当にレアになっている。そうした意味でも、国内専用モデルであるクラウンを選ぶ理由、クラウンでなければいけない理由がそこにある。
フラットな乗り心地とリニアなハンドリングの両立
スタートボタンを押しエンジン始動。走り出す。
新型クラウンのカタログでは、世界一過酷なサーキットと言われる、ドイツ・ニュルブルクリンク北コースで走り込んだと大々的に謳っている。クラウンは国内専用モデルなのに「ニュルで鍛えた」と敢えて大々的に記載するのは、それだけ「走り」に自信があるため。ユーザー年齢層を若返らせるのは、この新型クラウンからでなくもう先代/先々代からの課題だ。守りではなく、攻めの開発のひとつが、この「走り」ということだろう。歴史がある商品だからこそ、変わらなければならないものがある。
実際に街を走ってみると、クラウンらしいフラットな乗り心地。ちょっと荒れたアスファルトでも、よく動くサスペンションが路面ギャップを吸収し、まろやかな走り味を提供する。これ、視線が上下に揺れないイメージをするとわかりやすい。これはTNGA GL-Aプラットフォームの高剛性ボディ、新たに採用されたレクサスLS譲りのリアマルチリンクサスペンションが利いているはず。
乗り心地は良いけど、ただこれ、前のクラウンと同じ味じゃん……と早合点してはいけない。このクルマの驚きは、ワインディングの走りにある。
ハンドル操作とクルマの方向が変わるタイミングもリニアで、とにかくハンドリングが素直なのだ。追い込んでいっても、ロール感は伴わずなんなくクリアしていく。右/左と連続して切り返しのある細かなコーナリングでも、タイヤの前後接地バランスが良いので、揺さぶられる感じがなく気持ち良い走りができる。
この「2Lターボ+8速AT+RS仕様」という組み合わせが、最もスポーティなクラウンと言える。このエンジン、アクセルペダルを踏むとクセもなくエンジン回転が上がっていく。途中から、ミャーという過給器の回転音が聞こえてくるのが気になるが、トルクの出方も素直だ。決して「あり余るパワー」で強引に走るタイプではない。高回転まで回したくなるスポーティさがある。これはサスペンションアームの取付剛性やボディ剛性など、シャシ性能がしっかりとしているからこその「走りの楽しさ」なのだろう。
走りのテイストを任意に変えられる「ドライブモードセレクト」も搭載している。RS仕様の場合、エコ/コンフォート/ノーマル/スポーツS/スポーツS+/カスタム/スノーから選択でき、パワートレーン/シャシ/エアコンの状態が変わる。通常の「ノーマル」状態でワインディングを走っても気持ち良いのだが、スポーツS/スポーツS+を選択すると、よりアクセル操作に対するツキが良くなり、その気にさせる演出が楽しい。
高速や街乗りでのフラットな乗り味。峠道でのリニアなハンドリング。従来のクラウンオーナーを満足させながら、さらなる魅力を与えることで新しい顧客の獲得を狙っている。クルマは、やはり「走ってナンボ」「運転してナンボ」だ。その走りからは、トヨタの本気が見て取れる。
ただ、スポーティな走りを追求しようとすると、ヘタをすると子どもっぽい走り味になる恐れもあるが、そこはクラウン。しっかりと静粛性や快適性を確保した上で、密度の濃いドライバビリティを提供してくれる。先代でいう「クラウンアスリート」が新型の「RS」グレード、「クラウンロイヤル」が標準仕様…という感じではなく、新型クラウンは、1台でスポーツとコンフォートを両立している。
2.0Lターボと2.5Lハイブリッドの価格差は実質的にほとんどない
同じ「RSアドバンス」グレードで比較すると、今回試乗した2.0Lターボが559万4000円。対して2.5Lハイブリッドが579万9600円、3.5Lハイブリッドが690万6600円になる。
2.0Lターボと2.5Lハイブリッドの価格差は20万5600円。一見、この2.0Lターボが廉価バージョンに思えてしまう。
だが、2.5Lハイブリッドはエコカー減税+グリーン化特例の対象モデルとなり、RSアドバンスの場合だと約20万8400円優遇される。だから実質的に2.0Lターボ車と2.5Lハイブリッド車はほぼ同じ価格なのだ。
どっちのパワートレーンを選ぶのが正解?
では、その違いはどこにあるのか。
2.5Lハイブリッド(RS)のJC08モード燃費は23.4km/L。やはりこのクラスのセダンで20km/L超えの燃費は、大きなアドバンテージだろう。
走りだって良い。ボディ剛性や足のつくりは2.0Lターボ車と同じだから、フィーリングは今回のインプレッションと同様と思っていただいてOKだし、300Nmを発生するモーターのおかげで、ゼロ発進の力強さもある。さらにはブレーキのフィールも、ハイブリッド車にありがちな「回生ブレーキ」感がなくリニアなタッチだ。
対する2.0Lターボ(RS)の燃費は12.8km/L。燃費の差だけを見れば、おサイフを握るオクサマを説得するにはなかなか厳しいかもしれない。2.5Lハイブリッドの走りも良いから、なおさらだ。
ただ、回転が上がりとともに素直に加速する高揚感は、やはり2.0Lターボモデルのほうが上。トータルの出力も2.5Lハイブリッドの226psに対し2.0Lターボは245psと力強い。
また組み合わされる8速ATには滑らかさや節度感があり、シンプルにFRの濁りのないハンドリングを味わうならこちら2.0Lターボ車だろう。ちなみに2.5Lハイブリッドの車両重量は1770kg、2.0Lターボ車は1730kgと、その差は40kg。この重量差はそれほど走りに影響を与えないレベルだ。
どちらを選ぶのが良いのか。4WDがほしいなら2.5Lハイブリッド一択なのだが、FRとなると悩ましい。もうこうなると「好みで選ぼう」というほかない。どちらを選んでも後悔はしないはずだ。
文/ネギシマコト 写真/伊藤嘉啓
トヨタ・クラウン 2.0 RSアドバンス 主要諸元
●全長×全幅×全高=4910×1800×1455mm
●ホイールベース=2920mm
●車両重量=1730kg
●エンジン=直4 DOHC ターボ
●排気量=1998cc
●最高出力=245ps/5200-5800rpm
●最大トルク=350Nm/1650-4400rpm
●トランスミッション=8速AT
●駆動方式=FR
●車両価格=559万4400円(税込)