新記録となったグローバルでの新車販売
ポルシェの2018年1〜12月の販売状況が発表された。世界新車販売台数は25万6255台となり、これは前年比でプラス4%の伸びである。一番多く販売したのがマカンで8万6031台、次にカイエンで7万1458台となっている。
こうしたSUVが利益を稼ぎ出してるのは確かだが、あくまでもブランドの中心はポルシェが自らアイコンであると言っている911である。911があるからこそポルシェはポルシェらしさをいつまでも失わないのだ。

助手席に乗ってではあるがホッケンハイムリンクをテストドライブ。用意されたのは911カレラSと911カレラ4S。
ちなみにその911は、2018年は3万5573台を販売。対前年比プラス10%となった。フルモデルチェンジ前であるにもかかわらず、やはり911の人気は高い。そして2018年にブランド生誕70周年を迎えたポルシェは、その記念すべき年に、主力モデルであるニュー911をロサンゼルスの地で発表したのである。
Motor Magazine誌ではスニークプレビュー取材でその概要をレポート(2018年1月号)したが、今回はそれに引き続きテクニカルワークショップを取材、そこで判明した8世代目となる911の詳細を報告する。

ポルシェが911カレラに込める想いはとても強い。自らポルシェのアイコンと表現するほどだ。
3L水平対向ツインターボは911に理想的なエンジンだ
まず最初にニュー911カレラSとカレラ4Sのエンジンだ。搭載されるのは、タイプ991と同じ3L水平対向ツインターボエンジンでボアやストロークも変わっていない。それはポルシェの開発者によると「911には理想的なエンジンだから」だと言う。ただ、エンジンの搭載位置は変えていないがエンジンマウントの位置を変更しフレームに直接固定するようになった。これにより振動や騒音が低減されるという。

タイプ991同様3L水平対向ツインターボエンジンを搭載する。総排気量は2918cc、ボア91.0mm×ストローク76.4mmもキャリーオーバーだが、最高出力は30ps、最大トルクは30Nm向上した。
そしてカレラS、カレラ4Sともに、最高出力331kW(450ps)を発生、これは従来型より22kW(30ps)向上し、最高速度は前者が308km/h、後者は306km/hに達する。また0→100km/h加速は前者が3.7秒、後者は3.6秒となるがオプションのスポーツクロノパッケージ装着車はそれぞれ0.2秒速くなる。
また欧州ではPF(パティキュレートフィルター=微粒子除去システム)の採用が義務付けられているが、日本仕様には義務付けられていないため装着されない。

全長4519mm、ホイールベース2450mm。電動ポップアウトハンドルはドアに組み込まれた。
エクステリアでは、フロントボディがワイドになり、迫力を増したホイールアーチが特徴的だ。ホイールはフロント20インチ×8.5J、リア21インチ×11.5Jでタイヤサイズはフロント245/35ZR20、リア305/30ZR21だ。またブレーキキャリパーは、フロント6ピストン、リア4ピストンでローターサイズはフロントは350mm径×34mm厚、リア350mm径×28mm厚となる。

全幅1852mm、ドアミラーを含むと2024mmとなる、全高は1300mm、トレッドハフロント1589mm、リア1557mmとなる。
新世代の大型タッチ式スクリーンを採用する
そしてドアのアウターハンドルはボディと面一になりキーを持って近づくと電動で開くようになった。これはエアロダイナミクス的な効果があるという。さらにボディにはフロントとリア部分を除きアルミニウムを多用している。これで軽量化も実現しているのだ。
その他のデザイン的な特徴は、初代911を彷彿とさせるフロントライトを繋ぐフロントリッドライン、またリアには、ワイドな可変式リアスポイラーとパナメーラやカイエンにも採用された左右を繋ぐシームレスなライトバーが採用されている。

911伝統の5連メーターは中央のみがアナログ式となる。さらにそれぞれが重なっていないのは930時代のようである。またギアセレクターは大胆に小型化されたのも興味深い。
インテリアは、1970年代の911を連想させる直線的なラインが印象的だ。ポルシェ伝統の5連メーターも従来の円形の重なるようなものからすべての円が独立したものに変更され、さらに真ん中のメーターがアナログ式となる。
このあたりは、ポルシェの強いこだわりなのである。さらに目を引くのがポルシェコミュニケーションマネージメント(PCM)の10.9インチのタッチ式スクリーンで、これは新世代のパナメーラやカイエンにも採用されているものと階層やシステムを基本的に同じものとしている。
このPCMが911に採用されたことで今後このPCMは、ポルシェ車の主力となるはずだ。またそのディスプレイの下には、頻繁に使うファンクションを割り当てることができ、直接そこにアクセスできるスイッチが用意される。ちなみに真ん中はハザードスイッチとなっている。



他にも新しいトランスミッションとして8速DCT(PDK)が採用さされたのも大きな注目点だ。さらに開発者は、2019年、つまり今年後半にMT仕様も追加されると教えてくれた。これは朗報だ。ちなみにタイプ991は7速MT。トランスミッションの開発エンジニアに992はどうなるのか聞いてみたが、「従来のものを踏襲しつつ確実に進化したMTになる」と答えてくれたので、7速MTが採用されるはずだ。
世界初採用のウェットモードが全モデルに標準装備される
タイプ992には、世界初採用となるウェットモードが全車に標準装備されたこともトピックである。ハンドルに用意されたドライブモード選択スイッチでウェットを選ぶと、PSMやPTMのシステムがウエット用にセッティングされ、濡れた路面でも安定した走りを見せてくれるというものだ。

エンジンマウントの位置を変更し168mm前方にしてフレームに直接固定した。これによりねじり剛性が向上、振動や騒音を抑えている。

フロントブレーキは6ピストン、ローターサイズは350mm×34mm、リアは4ピストン、サイズは350mm×28mm。ともにベンチレーテッドディスクを採用する。
このウェットモードのセンサーは、フロントのホイールハウス内に装着され、音響センサーを使い路面からの音、たとえば水が当たる音などから水量やウエット状態を判断しているという。どうしてホイールハウス内なのか。それは路面に近い場所に音響センサーを装着することでより路面の状況を正確に把握するためである。
あっという間に200km/hオーバーの世界に突入。そのパフォーマンスには圧倒された
今回は、助手席でタイプ992のパフォーマンスを体験する同乗走行プログラムもあった。用意されていたのはカレラSとカレラ4S。どちらか選ばなければならない。少し迷ったが、カレラ4Sを選択した。PTM(ポルシェトラクションマネジメント)の進化も気になったからである。

同乗試乗には911カレラ4Sを選んだ。驚いたのは速さだけではない。実にコンフォートな乗る心地が味わえたのである。
試乗コースとしてホッケンハイムリンクを走ったが、ストレートであっという間に200km/hを超え216km/hまでをメーターを確認した。もちろん、そこが限界ではなく、かなり余裕があるように感じられた。
そしてなにより想像を超えていたのが、快適な乗り心地だ。超高速域でも気持ちいいフラット6のエンジンサウンドを楽しめたほど嫌な振動もない。ボディの剛性の高さは、さすがポルシェの最新モデルである。

PDLS付きLEDマトリックスヘッドライトは左右84個のLEDが装備され個別の動きで最適な照射を可能にする。

リアに縦型のルーバーを装備したデザインはタイプ991と同じだが、そこに新たにストップランプも組み込まれた。
2019年になって早々に911カブリオレも発表
次は、路面に水が撒かれた特設コースでの走行だ。ここでは、ウェットモードや4WDシステム性能を体感することができた。ドライバーはかなり派手なパフォーマンスを見せてくれたが、横から見ていると自由自在に911を操っているように見えた。そして実に楽しそうだ。ウェット路面なのにこれほど正確にクルマをコントロールできるということに驚きを隠せない。ウェットモードの効果は大いにあり、と判断した。

水が撒かれた特設コースでウェットモードを体験。助手席からもその効果が高いことを確認することができた。
ところで開発者に聞いたところ、992は従来どおりこれからラインナップが追加されていくという。つまりカブリオレ、タルガ、ターボ、GTS、GT2、GT3が順次追加されるということだ。その証拠に、さっそくこの取材後、19年になってすぐにカレラSカブリオレ/4Sカブリオレが発表されている。さらにニュー911では電動化も視野に入れて開発されていることも明言されている。つまりモデルサイクルのどこかのタイミングで、911のPHEVが追加されることになるだろう。それはそれでとても興味深い。

ポルシェトルクベクトリングPlusは、エンジントルクを左右に可変配分、状況に応じてホイールにブレーキもかける。

油圧式フロントリフトシステムも用意される。このシステムを使うことでフロント部分を40mm上げることができる。

後方から近づいてくる歩行者や自転車、車両などをセンサーで検知し警告するブラインドスポットも装備する。
安全・運転支援システムの充実もタイプ992の特徴
最後になったが、安全・運転支援機能の充実も見逃せない。オプションとなるものもあるが、PDLS付LEDマトリックスヘッドライト、トルクベクトリングPlus、後方を監視するブラインドスポット、熱検知が可能なナイトビジョンアシスト、さらに駐車を容易にする360度ビュー付パークアシストなどが採用されている。スポーツカーであり実用車でもあると謳う911は、さすがこのあたりも抜かりがない。

人や動物の熱を検知することができるカメラを備えたナイトビジョンアシストも採用。照射範囲は前方300mだ。

PDLS付LEDマトリックスヘッドライトは先行車や対向車を検知するとフレキシブルに照射を変化させる。

4つのカメラによってPCMのディスプレイに360度のトップビュー表示できる機能を持つパークアシストも備える。
さて、驚くべき進化を遂げたニュー911の改良点は、ここでは語り尽くせないほどあり、これからも機会があればレポートしていきたい。ちなみに日本へのデリバリーは、年年央となるようだ。次回はいよいよ国際試乗会からインプレッションをお届けする。さてどのようなパフォーマンスを味わわせてくれるのか、今から楽しみでならない。あぁ待ち遠しい。
ポルシェ911カレラS【4S】主要諸元
●Engine:種類 水平対向6気筒DOHCツインターボ、総排気量 2981cc、最高出力 331kW(450ps)/6500rpm 、最大トルク 530Nm/2300-5000rpm、燃料・タンク容量 プレミアム・64L、燃費 総合 11.2【11.1】km/L 、CO2排出量 205【206】g/km ●Dimension&Weight:全長×全幅×全高 4519×1852×1300mm、ホイールベース 2450mm、車両重量 1590【1640】kg、ラゲッジルーム容量 132L ●Chassis:駆動方式 RR【4WD】、トランスミッション 8速DCT(PDK)、ステアリング形式 ラック&ピニオン、サスペンション形式 前ストラット/後マルチリンク、ブレーキ 前Vディスク/後Vディスク、タイヤサイズ 前 245/35ZR20 後 305/30ZR21●Performance:最高速 308【306】km/h、0→100km/h加速 3.7〔3.5〕【3.6〔3.4〕】sec. ※EU準拠、〔〕はスポーツプラス装着車
ポルシェ911のミニヒストリー
1963年の誕生から55年の時を重ねたポルシェ911。「最新のポルシェが最良のポルシェ」とは使い古された言葉ではあるが、それはスペックを見るとよりはっきりと見えてくる。たとえば初代911は、最高速210km/h、0→100km/h加速9.0秒に過ぎなかったが、タイプ992はそれが308km/h、3.4秒になっているのである。
55年の歴史で最高速度は約100km/hアップ、0→100km/h加速は約5.6秒短縮されている

初代 タイプ901(1963年~、110~190ps、210km/h、9.0sec.)

2代目 Gシリーズ(1973年~、150~230ps、230km/h、8.5sec.)

3代目 タイプ964(1988年~、250ps、260km/h、5.7sec.)

4代目 タイプ993(1993年~、272ps、270km/h、5.6sec.)

5代目 タイプ996(1997年~、300ps、280km/h、5.2sec.)

6代目 タイプ997(2004年~、325ps、285km/h、5.0sec.)

7代目 タイプ991(2011年~、370ps、289km/h、4.8sec.)

8代目 タイプ992〔とGシリーズ〕(2018年~、450ps、306~308km/h、3.4~3.5sec.)