市販車をベースにした怪物マシン
「ヤリス」は、「ヴィッツ」の海外での名前。2018年のWRCを制した トヨタ ヤリスWRCは、ヴィッツをベースにWRカー(ワールドラリーカー)に仕立てられたクルマだ。
WRカーとはWRC(世界ラリー選手権)のトップカテゴリーに位置付けられる車両規定。大幅な改造が許されてはいるが、あくまでも市販車をベースにしたマシンで、ボディの大きさや車両重量、エンジンの搭載位置など、クルマの性能を決める主要な要素については改造範囲が厳しく制限されているので、ベース車の持つ特性が重要となる。ラリーのリエゾン区間では市販車両として一般道を走行するためにナンバープレートも装着されている。
WRカー規定は1997年に導入され、エンジンは当初2Lターボと規定されていたが、2011年より直列4気筒1.6L直噴ターボエンジンが搭載されることになった。
エンジンの最高出力は380ps以上。そのビッグパワーは、アクティブセンターデファレンシャルを備えたフルタイム4WDシステムによって、効率的に4輪に伝えられる。トランスミッションは油圧式6速シーケンシャルシフト。
エンジンのほかに、大きく変更されているのがサスペンション。舗装路、未舗装路、そして雪道など、悪路を高速で走るために専用に開発。ハードな走りを支える高い耐久性も備わっている。
コースや路面の状態によってブレーキに求められる性能も異なる。舗装路(ターマック)では制動力が強い大きなブレーキディスクを装着。一方、路面が滑りやすく大きな制動力を必要としないグラベルではターマックよりも小さいブレーキディスクを装着する。
グラベル用とターマック用ではタイヤのホイールサイズが異なるのも面白い。グラベルでは15インチ、ターマックでは18インチタイヤを装着。1イベントで使用できるタイヤの本数は規定で決められているので、いつタイヤを交換するかも重要な戦略のひとつとなる。
ボディに関しては、基本的な形状は市販車と同じだが、大きく張り出したサイドシルや巨大なリアウィングなどにより、空力効果の高い大胆なエクステリアデザインへと進化している。
こうして出来上がったヤリスWRCはまさにモンスターマシンだが、運転がそれほど難しくないのがWRカーの特徴。マニュアル車の運転ができれば動かすことは可能で、一般的なスピードで走らせる分には特別な技術は必要ない。あらゆる道が戦いの舞台となる過酷なラリーでは、「乗りやすさ」も重要な性能なのだ。
トヨタ ヤリス WRC 主要諸元
●全長×全幅×全高=4085×18705×-mm
●ホイールベース=2511mm
●車両重量=1190kg
●エンジン=直4DOHCターボ
●排気量=1600cc
●最高出力=380ps以上
●最大トルク=425Nm以上
●トランスミッション=6速シーケンシャル
●サスペンション=ストラット
●駆動方式=4WD
※全高はラリーイベントによって異なる
市販車トヨタ ヴィッツ U FF 主要諸元
●全長×全幅×全高=3945×16955×1500mm
●ホイールベース=2510mm
●車両重量=1010kg
●エンジン=直4DOHC
●排気量=1329cc
●最高出力=99ps/6000rpm
●最大トルク=121Nm/4400rpm
●トランスミッション=CVT
●サスペンション=ストラット/トーションビーム
●駆動方式=FF