半世紀前のクルマとは思えぬ快適性と刺激的なパワーを両立
古くからアメリカではS30フェアレディZに大排気量V8エンジンを積み、ドラッグレースに用いてきた。安価なスポーツカーでも勝てるマシンに変身するのが人気の秘訣だ。
翻って現代、V8エンジンはアメリカ車の専売特許ではない。国産車にもV8搭載モデルが存在する。そこに目をつけたのが愛知県岡崎市にあるロッキーオートだ。
同店は20年も前からS30やハコスカなどにRBエンジンをスワップしたコンプリート車両を製作販売してきた。RBとは異なる価値観を模索した時、ロッキーオートが考えたのがセルシオやレクサスLS400用のV8エンジンにスワップすることだった。
こうして生まれたのが、ここで紹介する1UZエンジンを積むZだ。ベースになったのはマイナーチェンジしてボディ剛性が引き上げられた後期型のS31(1978年式)。
ロッキーオートでは旧車にハイパワーエンジンをスワップする時、ボディに徹底した補強を加える。フロアのメインフレーム部に強度・厚みとも純正を上回る鋼材を溶接。Aピラーからインナーフェンダーを貫きメンバー周辺まで伸びるパイプを追加し、ドアやステップにも補強を加える。これにより旧車とは思えない強靭なボディに仕立て上げられている。
特筆すべきは快適性で、チューニングカーとは思えないほど乗りやすい。もちろんクラッチ操作は必要だが、非力な女性でも難なくこなせるほどペダルは軽い。車重は1トン強しかないボディに4LのV8を載せるのだから、ストールに対する気遣いも無用なのだ。
ステアリングは油圧システムごと1UZから引き継いだパワステ仕様。極太タイヤを意識することなく据え切りもできる。さらにエアコンユニットも1UZから移植しており、50年も前のフェアレディZなのにオートエアコンが装備されている。
これにより真夏の渋滞でも普通に乗ることができる。つまり旧車、しかもチューニングカーのネガをキレイに払拭しているのだ。
誰でも気軽に乗ることができるが、その走りは極めて刺激的。ひとたびンジンに鞭打てば背中が蹴飛ばされるように加速を始め、その勢いはレブリミットまで衰えない。補強を加え前後にはオリジナル開発したサスペンションも備えるため、操縦性にも不安はない。
ところが、おとなしく乗れば燃費もリッター10kmを割ることはないという。まさにイイことずくめのエンジンスワップといえるだろう。(文:増田 満/写真:伊藤嘉啓/取材協力:ロッキーオート)