これぞ古典的なアメリカン・ドラッグレーサーの典型だ
初代フェアレディZ(S30型)は、そもそもアメリカ市場からの要望により開発された。割安だった新車価格も手伝い、発売と同時に大ヒット。9年間も販売されたロングセラーだから、アメリカでも中古車のタマ数は豊富。ゆえに格好のカスタムベースになった。
アメリカでのカスタムといえば、エンジンスワップ。S30は前後に長いL型6気筒エンジンを搭載するため、エンジンルームに余裕がある。V8に限らずエンジンスワップに適した車体構成だ。そこで、アメリカンV8を搭載したZがドラッグレースで大活躍した。
ロッキーオートでは自社開発した日産のRB型や前回紹介したトヨタの1UZスワップ車両とは別に、アメリカンV8にスワップしたフェアレディZも輸入販売している。
今回紹介するのは、とくにチューニング度が高いエーデルブロック製キットを用いたハイパフォーマンス仕様だ。
搭載されたエンジンは5.7Lのシボレー製、通称スモールブロックの350キュービックインチ(約5.7L)仕様。エーデルブロック製ヘッドやキャブレターが組み込まれて、クラッチはドラッグレースで定評ある強化タイプ。トランスミッションはストリートでも使える5速MTの組み合わせ。ということでお気づきかもしれないが、このZを転がすには強靭な左足の筋力が必要だ。
ドラッグレース用だからだろう、クラッチは普通に左足を伸ばしてもビクともしない重さ。意識して力を込めると、ようやく踏み込める感じで、たとえば都内の信号だらけの環境で乗るにはまったく適していない。
だが、エンジンは猛烈にトルクフル。重いクラッチから徐々に力を緩めると、軽々と車体をスタートさせる。しかも、通常は3000回転以上回す必要はない。シフトチェンジをサボっても、チューンドV8の轟音が高まり速度を自在に調整できる。これだけフレキシブルだと、豪快な加速が右足ひとつで楽しめる。
クラッチとともに、もうひとつ大変なのがステアリングの重さ。パワステなど装備されていないから、エンジンの重さと太いタイヤの組み合わせでメゲそうになる。据え切りなどできないと思っていいし、動き出しても重さは大して変わらず、急なステアリングさばきは事実上無理だろう。
とはいえ、これはひと昔前のチューニングカーなら当たり前の話だった。そのつもりで乗るなら、アメリカンV8の弾けるパワーを存分に味わうことができるだろう。(文:増田 満、写真:伊藤嘉啓、取材協力:ロッキーオート)