タフな使い方OKの実用装備が充実
スズキ発軽自動車軍団の、「遊び心」の勢力拡大が止まらない。昔からスズキは、マイティボーイやワゴンRといった、遊び心溢れる個性派モデルを世に送り出してきた。最近ではハスラーや新型ジムニーなど、クロスオーバー系の魅力的なモデルが、世代も性別も超えてヒットしている。
そして昨年12月、ある意味「真打」とも言うべき「遊び心満載」のニューフェイスが登場した。それがスペーシアギアだ。
ベースは、今や軽自動車販売の主役となっているトール系ワゴンの1台、スペーシア。ホンダN-BOXやダイハツ ウェイクなど強力なライバルたちが揃う中、このカテゴリーでは初めて、内外装を中心に本格的なクロスオーバーテイストを盛り込んできた。
そのインパクトは、これまでトール系ワゴンとして一般的だったベーシックな「標準車」とも、エアロパーツなどでイカつさと上級感をアピールする「カスタム」とも違う。おもちゃ感覚一歩手前まで踏み込みながらも、「ギア=道具」としてスタイリッシュにまとめ上げたアレンジは、実にセンスがいい。文字どおり「痛快無比!」なカタチの持ち主だ。
インストルメントパネルにも、ウィットに富んだオリジナリティが盛り込まれている。たとえばトラベルトロリーのようにも見えるインパネアッパーボックスに刻まれたXのアクセントは「ギア」専用。ファブリックシート表皮の撥水加工処理など、タフな使い方に耐える実用的装備も豊富に揃う。
リアシートのスライド機能やダイブダウン機能、前倒しで背面がフラットになる助手席といったスペーシア譲りの優れたユーティリティ性能を使いこなせば、ハスラーにもジムニーにも詰めなかった「お遊び道具」を積むことができる。
たとえば27インチのロードバイクがホイールを外さなくても搭載可能なところは、ポイントが高い。荷室開口部には、自転車の積み込みをラクにするためのガイドまで用意されている。細かい気配りが、いろいろ凄い。そんな卓越した遊び道具としての才能を力強くバックアップしてくれるのが、ゆとりの動力性能と高い機動性だ。
キビキビ感溢れるパワーモードが楽しい
試乗したハイブリッドXZターボはISG(Integrated Starter Generator:モーター付発電機)を使ったマイルドハイブリッドシステムを採用。効率的に回生エネルギーを回収するとともに、アイドルストップからの再始動時や加速時にスムーズな始動と加速をアシスト、燃費も向上させてくれる。
モーターによるアシストのオンオフはとてもシームレスで、アクセルペダルの踏み込みに対して比較的穏やかにスピードが伸びていく。「ターボ」らしい突進感は、控えめ。遮音性にも気を配っているのだろうか。パワートレーンなどからのノイズが、巧みにカットされているように思えた。
街中をキビキビと気持ちよく駆け抜けたいのなら、パワーモードを作動させるといい。右手をハンドルに添えたところにある「PWR」スイッチをポチっと押すだけで、オンオフが制御できる。
エンジンやCVTの制御がよりスポーティに変更されるとともに、ISGのアシストトルクがアップ。まるでアクセルペダルの操作と加速感が直結したかのような、リニアな走りに変化する。ルックス同様ひときわ痛快だ。
ただし今回の試乗中、大きめの凹凸がある路面やカーブでは、ややヒョコヒョコと落ち着かない挙動を感じさせることがあった。終始ひとりで荷物も積まずに走り回っていたので、荷重が不足気味だったのかもしれない。家族を乗せたり趣味のお道具を満載すれば、印象はずいぶん変わるだろう。
そんなワケで「あれを積んであそこに行って、これも積んでこっちへ行って」と考えていくと、膨らんでいくのが最近流行の「おひとりさまドライブ」への妄想。スペーシアギアの魅力は、そんな勝手気ままな「いい大人」の遊び心まで、絶妙にくすぐる。(文:神原 久)
■スズキ スぺ―シア ギア ハイブリッドXZターボ主要諸元
●全長×全幅×全高=3395×1475×1800mm
●ホイールベース=2460mm
●車両重量=890g
●エンジン= 直3DOHCターボ
●排気量=658cc
●最高出力=64ps/6000rpm
●最大トルク=98Nm/3000rpm
●モーター最高出力=2.3ps/1000rpm
●モーター最大トルク=50Nm/100rpm
●駆動方式=FF
●トランスミッション=CVT
●車両価格(税込)=169万5600円