封印がないワケは、軽自動車カテゴリーを設定した歴史にある
普通/小型車のリアにあるナンバープレートを見ると、左側のボルトの上にアルミのキャップのようなものが被せてある。これは「封印」というもので、ナンバープレートを発行する運輸支局に、登録されたことを意味する。勝手にナンバープレートを外したり、取り換えたりすることを防ぐ役割も担っている。
一方、軽自動車を見てみると封印が取り付けられていない。
その理由は、普通/小型車と軽自動車で法律的に取り扱いが異なるからだ。普通/小型車は車両情報と所有者情報を運輸支局へ「登録」するのに対して、軽自動車のナンバープレート発行は、軽自動車検査協会へ「届出」をするだけ。封印の有無だけでなく、手続きの工程も軽自動車の方が簡略化されている。
ナンバープレートの正式名称も、普通/小型車は「自動車登録番号標」であり、軽自動車は「車両番号標」と違う。そのため、登録の必要な普通のクルマを「登録車」と呼んで軽自動車と区別する言い方もある。
では、同じクルマであるはずなのに普通/小型車と軽自動車とで、なぜ扱いが違うのか。その理由を知るためには、クルマが一般に普及するはるか以前にまでさかのぼり、その成り立ちを考える必要がある。
軽自動車という枠組みが生まれたのは、第二次世界大戦直後の復興期のこと。当時の日本はまだまだ貧しく、自動車を個人で購入することは夢のまた夢。そこで、庶民にも手の届きやすい存在として新設されたのだ。当然、手続き関連も簡略化されていた。そのために封印がないというわけだ。
当時の軽自動車は四輪車だけでなく二輪車や三輪車もひっくるめたカテゴリーであり、当初はオートバイや三輪トラックから広まりはじめた。しかし、1955年のスズキ スズライトの誕生や1958年のスバル360のヒット以降、四輪の軽自動車が本格的に普及してゆく。
最初はオートバイに毛が生えたような簡素な乗り物だった軽自動車も、昭和から平成をかけて進化を続け、最新モデルは機能や性能、車両価格もコンパクトカーと遜色ないほどのものになっていった。だからこそ、軽自動車に封印がないことを違和感と感じる人もいるだろう。
ちなみに、第二次世界大戦で荒廃した欧州でもマイクロカーやバブルカーなどと呼ばれる小さなクルマが人気を博していた。しかし、こちらは大きな市場に成長することはなく、言ってみれば日本だけが軽自動車カテゴリーの育成に成功したと言える。(文:鈴木ケンイチ)