2000年代も半ばに入ると、少量限定生産の過激なクルマは徐々に姿を消していく。その代わりメーカーのサブ・ブランド的な役割を与えられたコンプリートカーが量産ラインを流れるカタログモデルとなることが増えてきた。絶対的な動力性能よりも環境性能が声高に叫ばれる時代となったことも、影響しているだろう。だが、そんな時代にあっても、量産車の限界に挑んだクルマがあった…。
画像: 4つのドア開口部に「連続シーム溶接」という手の込んだ溶接技術を採用したバージョンRスペシャル。堅牢なボディのおかげで、足回りはよく動く。硬いけれど、乗り心地は予想外に良かった。

4つのドア開口部に「連続シーム溶接」という手の込んだ溶接技術を採用したバージョンRスペシャル。堅牢なボディのおかげで、足回りはよく動く。硬いけれど、乗り心地は予想外に良かった。

ベースモデルのバージョンRでも他社のコンプリートカーに匹敵するレベル

このコルトのベースになったバージョンRは限定車ではない。とは言え、WRC規定の変更が取りざたされていた折に、ランエボに代わる次期WRC参戦マシンとして開発が進んでいたクルマをベースに誕生した、知る人ぞ知るマニアックなクルマではある。まずはこのベース車であるバージョンRについて振り返ってみよう。

バージョンRのデビューは、2006年5月のこと(発売は同年9月)。従来型のラリーアートバージョンの発展型として、よりスポーツドライビングに特化した仕様として誕生した。

どこがマニアックかと言えば、まずはそのエンジンだ。当時、すでに珍しくなっていた1.5Lのターボエンジンを搭載していた。もちろん、いま流行のダウンサイジングターボではなく、バリバリの武闘派。最高出力154psは当時のクラス最強、しかも組み合わされたのはゲトラグ製5速MTとザックス製クラッチだった(CVT車の設定もあった)。

画像: バージョンRとバージョンR“スペシャル”の5速マニュアルミッションはゲトラグ製。クラッチはザックス製だ。このクルマの出自=次期WRCマシンとして企画されていた名残か?

バージョンRとバージョンR“スペシャル”の5速マニュアルミッションはゲトラグ製。クラッチはザックス製だ。このクルマの出自=次期WRCマシンとして企画されていた名残か?

画像: バージョンRとバージョンR“スペシャル”に搭載されたエンジンは、当時クラス最強を誇った1.5LのMIVECターボ。ただし、パワーはあったがインタークーラーのパイピングが長くレスポンスはいまひとつだったのが残念!

バージョンRとバージョンR“スペシャル”に搭載されたエンジンは、当時クラス最強を誇った1.5LのMIVECターボ。ただし、パワーはあったがインタークーラーのパイピングが長くレスポンスはいまひとつだったのが残念!

エクステリアも、大きく口を開けたグリルが印象的なフロントバンパーと冷却効率を高める開口部を設けたボンネットフードなど、ランエボもかくやと思われる迫力。リアバンパー下部もディフューザー形状を採用し、機能とローフォルムを両立した。仕上げは、マットブラックの前後オーバーフェンダー。そこに収まるのは245/45R16のアドバンネオバだった。

インテリアに目を移せば、240km/hフルスケールのホワイトメーター。ペダル類もランエボと同じアルミ製だ。さらにオプションとして、レカロ製フルバケットシートまで用意されている。ちなみに、リアシートのホールド向上のため、乗車定員は4名に減らされていた。

その白眉は、随所に施されたボディのスポット増しだ。ラリーアートの約1.5倍ものスポット溶接ポイントの増し打ちに加え、Dピラーには補強用のガゼットも加えられた。その結果、ボディの捻り剛性はバージョン〜比で約30%も向上している。欧州仕様のターボ車を参考にチューニングされた足回りの動きを存分に生かす。

画像: 欧州仕様をベースに開発された足回りには、一部にインチ規格のネジがそのまま使われていた。

欧州仕様をベースに開発された足回りには、一部にインチ規格のネジがそのまま使われていた。

現在の三菱のイメージとは異なるかも知れないが、当時はこれだけマニアックなクルマを量産ラインで生産していたことに、いまさらながら驚かされる。

量産ラインで御法度の連続シーム溶接を採用したバージョンR“スペシャル”

ベースモデルの段階で、すでにコンプリートカー感が濃厚だが、これに輪をかけたこだわりの限定車が「バージョンR“スペシャル”」である。発売されたのは2008年5月(発表は4月)と10年2月(同1月)。打限定台数は前車が300台、後車が200台だ。

では、どこが〝スペシャル〟なのか。最大の特徴は、さらなるボディ剛性の向上にある。「連続シーム溶接」と呼ばれる加工が施されているのだ。従来のスポット溶接に加え、4つのドア開口部にあるボディパネル貼り合わせ部分の全周を熟練工が回転電極を用いて手作業で間断なく溶接していく。溶接面積が格段に増えてボディの曲げ剛性が約10%も向上した。さすがにここまでやると量産は効かず、台数限定車となった。

画像1: 量産ラインで御法度の連続シーム溶接を採用したバージョンR“スペシャル”
画像: 写真上が従来のスポット溶接。下が“スペシャル”で採用された連続シーム溶接。点ではなく連続する線で溶接されるため、溶接面積が格段に増えてボディ剛性が大幅に向上した。

写真上が従来のスポット溶接。下が“スペシャル”で採用された連続シーム溶接。点ではなく連続する線で溶接されるため、溶接面積が格段に増えてボディ剛性が大幅に向上した。

さらに好評だったメーカーオプションのレカロシートや、ラリーアート製のスポーツマフラーも標準装備していた。すでに07年11月のマイナーチェンジで、最高出力は154psから一気に164psに向上しており、クラス最強の座をほしいままにしていたコルト ラリーアート バージョンRとその限定車。今となっては、ややクラシカルなところもあるが、見つけたらぜひ試して欲しい一台だ。

画像2: 量産ラインで御法度の連続シーム溶接を採用したバージョンR“スペシャル”
画像: 写真上が300台生産された08年モデル、写真下は2010年に200台限定で追加生産された10年モデル。両車の違いはホイールカラーのみだ。

写真上が300台生産された08年モデル、写真下は2010年に200台限定で追加生産された10年モデル。両車の違いはホイールカラーのみだ。

あの限定車は凄かったのバックナンバー

コルト ラリーアート バージョンR “スペシャル”主要諸元

●ボディサイズ:全長3925×全幅1695×全高1535mm
●車両重量:1110kg 
●乗車定員:4名 
●エンジン型式・形式:4G15 MIVEC TURBO・直4DOHCターボ 
●エンジン総排気量:1468cc
●エンジン最高出力:163ps/6000rpm 
●エンジン最大トルク:21.4kgm/3500rpm 
●駆動方式:FF
●サスペンション形式:前ストラット・後トーションビーム 
●ブレーキ形式:前Vディスク・後ディスク 
●タイヤサイズ: 205/45R16

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