イタリアンルックにアメリカの心臓を持つスーパーカー
1966年にマングスタをトリノショーで発表して、一躍スーパーカーメーカーの仲間入りを果たしたアレッサンドロ・デ・トマソ率いるデ・トマソが、米フォードと手を組み開発したのが、1971年に登場したパンテーラだ。速いだけでなく大量生産でコストダウンを狙ったスーパーカーというコンセプトは世界初のものだった。
基本骨格はランボルギーニから移籍したG・P・ダラーラが設計した。当時はまだバックボーンフレームが主流だったスーパーカーの中では異例ともいえるモノコック構造で、クリーブランドの愛称を持つフォード製5.8LのV8 OHVをミッドに縦置きしている。ボディデザインはカロッツェリア・ギアに在籍していたトム・ジャーダの手によるもので、全高わずか1100mmのウエッジシェイプに仕上げられた。
生産性にまで配慮したスタイルは、イタリアンデアインの繊細さには欠けて荒っぽい部分もあるが、その荒々しさが力強さに感じられるのは、優れたデザイン性によるものだろう。
ただし、リアのフードを開けても2列に並んだ美しいカムカバーは見えない。バンク中央に置かれた4バレル・ダウンドラフトキャブレターのエアクリーナーと、何の変哲もないOHVエンジン、そしてZF製5速MTが鎮座しているだけだ。
フォード製351CDIユニットは300psの最高出力を5400rpmで発生する低回転型だ。そのおかげでメンテナンスフリーで所定の性能を発生する。これがマルチキャブで神経質なイタリアンスーパーカーとの決定的な差でもある。
トルクに至っては44.0kgmのビッグトルクを3500rpmで発生したから、低速域での扱いやすさはこの種のクルマとしては抜群で、スーパーカーのイメージを覆す低速性能も発揮した。フェラーリのほぼ半額で公称最高速度260km/hの性能が手に入る、となれば人気が高まるのは当然だ。1972年には3000台に迫る販売実績を残している。
アメリカンV8ユニットは官能性能に欠ける、との指摘はついて回った。十分速いが、エンジンの吹け上がりやサウンドなど様々な要素が絡んで醸し出される速さの質が大味だというのだ。そこで1973年に追加されたのがGTSだ。エンジンは同じフォード製351CDIながら、圧縮比を11.0:1に上げて330ps/47.5kgmまでチューンした結果、不評だった吹け上がりはシャープとになり、最高速度も290km/hに上がった。
同時に、GTSをベースに500psオーバーまでチューニングしたグループ4レース参戦用モデル、GT4も開発。レースでは目覚ましい結果こそ残せなかったが、標準車と一線を画す走りを臨む声に押されれて、1974年にはレース仕様のGT4が市販されている。約20年におよぶロングライフを保ったのも特徴で、最終型は1991年に発表されたパンテーラSIだ。
デ・トマソ・パンテーラGTS主要諸元
●全長×全幅×全高:4270×1830×1100mm
●ホイールベース:2515mm
●重量:1420kg
●エンジン:V8 OHV
●排気量:5763cc
●最高出力:330ps/6000rpm
●最大トルク:47.5kgm/3500rpm
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:縦置きミッドシップRWD