このクオリティの高さは、もはや軽自動車ではない!
2019年7月に4世代目にフルモデルチェンジしたタントの受注が好調で、発売後約1カ月の時点で早くも月販目標台数(1万2500台)の約3倍となる約3万7000台となった。購入層は子育てファミリーから子離れ・シニアを中心に幅広い年齢層に渡り、ほぼすべてのユーザーがスマートアシスト搭載グレードを選択しているという。
今回は、そんなタントのトップグレードともいえるカスタムRSに試乗してみた。タントには他の人気軽自動車同様、ノーマル系とカスタム系がラインアップされるが、タントのカスタム系は他のモデルに比べると「オラオラ感」は少なく、好感の持てるスタイリングだ。高級感を漂わせながらもアクの強さを抑えて、飽きのこないデザインにまとめている。
独特の細長いフロントクオーターウインドーを備えたセミ1BOX風スタイルは従来型と大きく変わっていないが、むしろタントの定番スタイルとして定着しているようだ。新鮮さはないけれど、永く付き合えるだろう。
タントの売りであるミラクルオープンドアに加え、運転席は最大540mm、助手席は最大380mmスライドできるので、助手席側から運転席への乗り降りが可能になったり、運転席から後席の荷物を取ったり、シートアレンジなども含めて使い勝手は高まった。
さて、カスタムRSは軽自主規制値の64psと10.2kgmを発生するターボエンジンを搭載する。車重は1トンを少し切るくらいだが、十分パワフル。普通に走るならノーマルモードでもまったく不満はない。パワーモードにすると、市街地走行ならスポーティカーに匹敵するパフォーマンスを発揮する。
このクルマでコーナーを攻める…なんて人もいないだろうけれど、都市高速レベルのコーナリングなら背が高い割りにはロールは抑えられており、不快感はない。ただし、カスタムRS専用の165/55R15タイヤによる乗り味は少し硬い。他グレードでは155/65R14となるが、こちらでも十分ではないかと思われる。
スプリットギアを組み込んだCVTの出来は良く、加減速はスムーズだ。CVTによくあるラバーバンドフィールがないのも好感が持てる。パドルシフトなどはないが、Dレンジでクルーズするとエンジン回転数は80km/hで1950rpm、100km/hで2500rpmといったところ。
ショートホイールベースの軽自動車ゆえ、高速道路での走行は若干ピッチを感じるけれど、DNGAを採用したボディの剛性感は高く、質感の高いインテリアも相まって、軽自動車に乗っていることを忘れさせてしまう。
そう、電子制御タイプのウインカーレバー(作動時のクリック感がない)や本革巻きのステアリング&シフトノブとか、もはやインテリアのクオリティはかつての軽自動車のレベルではない。だからこそ、経済的な問題で軽自動車を買うのではなく、このサイズのクルマが良いから軽自動車を買う、という人が増えているのだろうし、軽自動車にも充実した安全&快適装備が求められるのだろう。
スマートアシストも進化した。軽自動車とはいえ全車速追従機能付きアダプティブクルーズコントロールやレーンキープコンロトールなど、オプションだが用意されており、精度的にも問題ない。購入者の多くが装着しているということも評価しておきたい。
ひとつだけ気になった点は、高いルーフのおかげ?で、ルームミラーの位置がかなり上にあること。目線の移動が大きくなりすぎるので、できればスマートアシストのカメラ下あたりに取り付けて欲しいところだ。
今回、お盆期間前の暑い都会で約80km(市街地7割、都市高速3割くらい)走行して、平均燃費計は16.9km/Lを記録した。もちろんエアコンは入れっぱなしで、エコランはせず。アイドリングストップは頻繁に作動するが、気温が高いので長時間はエンジン停止しなかった。
スーパーハイト系だけでなく現在の軽自動車はホンダ N-BOXの一人勝ち状態が続いているが、この新型タントがどこまで肉薄できるか。クルマの性能や装備的には遜色ないし、あとはデザインなど好みの問題だろう。王者N-BOXも、安穏としてはいられない時がやってきたようだ。(文:篠原政明/写真:井上雅行)
タント カスタムRS 主要諸元
●全長×全幅×全高:3395×1475×1755mm
●ホイールベース:2460mm
●重量:920kg
●エンジン種類:直3 DOHCターボ
●排気量:658cc
●最高出力:47kW(64ps)/6400rpm
●最大トルク:100Nm(10.2kgm)/3600rpm
●WLTCモード燃費:20.0km/L
●トランスミッション:CVT
●タイヤ:165/55R15
●車両価格(税込):174万9600円