スーパーカーといえばエンジンはミッドシップ…と思われがちだが、コンベンショナルなFR(フロントエンジン リアドライブ)を採用しているモデルも、1960年代から21世紀の現代まで数多く存在する。そこで、FRならではの美しい佇まいも備えたスーパースポーツカーを紹介する連載企画をお届けしよう。

MASERATI Khamsin:マセラティ カムシン(1973-1982)

画像: ガンディーニの手によるデザインはシャープなもので、ミッドシップと言われても違和感がない感じもする。

ガンディーニの手によるデザインはシャープなもので、ミッドシップと言われても違和感がない感じもする。

スーパーカーブームの黎明期に人気を集めたギブリの後継モデルが、ここで紹介するカムシンだ。1972年のトリノ モーターショーでベルトーネのデザインスタディとして発表され、翌1973年のパリ モーターショーでマセラティ カムシンとしてプロトタイプが発表された。「カムシン」という車名は、エジプトの砂漠に吹き荒れる砂嵐のことで、アラビア語では「ハムシン」とも呼ばれる。ギブリやボーラ同様、マセラティ一連の風に由来する車名だ。

ギブリは2シーターだったが、カムシンはギブリより全長は少し短いものの、プラス2のリアシートを確保したうえリアゲートを備え、実用性を向上させていた。カムシンのデザインスタディが発表された前年の1971年に登場したミッドシップ スポーツのボーラに動力性能の追求は任せて、FRのカムシンはギブリの後継モデルとして超高速GTカーという立ち位置に徹していた。

画像: リアエンドのテールランプの間はガラス張りにして後方視界を確保している。

リアエンドのテールランプの間はガラス張りにして後方視界を確保している。

インディのデザインはミケロッティ、ギブリのデザインはジウジアーロだったが、カムシンのデザインは前述のとおり、ベルトーネ。チーフデザイナーはランボルギーニ エスパーダやハラマを手がけた鬼才、マルチェロ・ガンディーニだ。ウエッジシェイプで直線基調のスタイリングは、前作のギブリとは趣向が変わっている。後方視界を確保するため、リアエンドをガラス張りにしているのが特徴的だが、このあたりの処理は同じガンディーニが手がけたエスパーダにも通じるところがある。

フロントに搭載されたパワーユニットはギブリの後期モデル、ギブリSSのものと同じ4.9LのV8 DOHC。最高出力は320psにおさえられていたが最大トルクは49.0kgmにアップし、トランスミッションは5速MTのほかに3速ATも設定されていた。

画像: 当時のスーパーカーの中ではスパルタンな雰囲気のコクピット。アクセルペダルの支点はセンターコンソール側にある。

当時のスーパーカーの中ではスパルタンな雰囲気のコクピット。アクセルペダルの支点はセンターコンソール側にある。

当時、マセラティ社はシトロエン社の傘下にあった影響で、同社の油圧式アシストシステムをステアリングやブレーキなどの各部操作系に取り入れていた。そのため、シトロエン譲りのセルフセンタリング式のステアリングにはかなりクセがあり、またシステムのトラブルも多かった。足まわりには、4輪独立のダブルウイッシュボーン式を採用している。

インテリアは高級GTカーらしいラグジュアリーなものだったが、ギブリよりはスパルタンな雰囲気だった。カムシンは、マセラティ社がシトロエン社の傘下からデ・トマソ社の傘下に移る1982年まで生産され続け、スーパースポーツカーとしては比較的ロングセラーとなったが、前述のシステムトラブルなど信頼性の問題もあり、430台ほどしか生産されていない。

画像: ボンネット上の左右非対称のルーバーがユニーク。1977年のマイナーチェンジで、フロントまわりのデザインが変更された。

ボンネット上の左右非対称のルーバーがユニーク。1977年のマイナーチェンジで、フロントまわりのデザインが変更された。

マセラティ カムシン 主要諸元

●全長×全幅×全高:4400×1800×1140mm
●ホイールベース:2550mm
●車重:1530kg
●エンジン形式・排気量:90度V8 DOHC・4930㏄
●最高出力:320ps/5500rpm
●最大トルク:49.0kgm/4000rpm
●燃料タンク容量:90L
●トランスミッション:5速MT/3速AT
●タイヤサイズ:215/70VR15

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